デスクの独り言
                          
第40回・2002年9月16日

正義の行方(2)

  
 大館市の農地転用事件に伴う県と市の対応に対し、先のコラムで少々批判を加えた経緯がある。同市のさる6月定例議会で議員有志が地方自治法に基づく調査特別委員会(100条委)の設置を求めて退けられ、以降、同事件は過去に葬られたかのようだった。違法の土地を違法のまま残す、いわば正義を踏みにじったままの大館に明るい未来など期待できるはずもない、と落胆していたのだが、わずかながら暗闇に明光をさす動きが市民の間に沸き起こってきた。正義不在の同事件の決着に納得のいかない市民団体が「市民100条委員会」の発足に向けて始動し始めたのだ。ほんの一部の市民であれ、正義を貫こうとするこうした大人たちの取り組みを、21世紀を担う青少年たちは見ている。大館の大人として良い手本を示すためにも、徹底して正すべきを正してほしい。

 同事件の発端、経緯、顛末を記述すると長文になるため、関心のある方は第37回コラム「正義の行方」を参照していただきたい。先のコラム以降、最も失望したのは議員有志が100条委の設置を提案したにもかかわらず、多くの議員らが「すでに終わったこと」との認識とともに否決の側にまわったこと。これにより、同事件に伴う100条委設置は2度にわたって退けられたことになる。問題の土地の原状回復を訴え続けてきた大館市民オンブズマンの会(荒川昭一代表)の憤りと失望ははかり知れなかったはずだ。

 ご多分に漏れず大館市にもうかがえる傾向だが、地方に住む者は都会に住む者に比べて「終わったことを蒸し返すな」という意識が強く働くように思える。都会は住民同士の横のつながりが地方に比べて比較的希薄で、極端な場合は隣人が誰なのかわからぬことも往々にしてある。しかし、ムラ社会的風土色の強い地方では土着としての住民のつながりが「なあなあ」主義として表れ、一つの事件に対しても「終わったことは、もういいスべぇ」となりがちだ。それが100条委設置を退けた6月定例会にも明確に表れており、「最高裁判決も出たことだし」というある種、権威崇拝的なやはり地方特有の意識が見え隠れする。それをよしとせず、きちんと決着をつけようと「市民100条委員会」設置の動きが市民団体の中から沸き起こったのは賞賛に値する。

 今月20日に月刊「THE市町村合併」の「プレ創刊号」を刊行する比内町のジャーナリスト、菊地隆二郎氏(53)も同事件に対しては強い関心をいだいており、「小畑市長はすでに死に体だが、いずれ責任を徹底追及する」と話す。彼のことなので、市長に食らいついたら離れまい。同事件に対して市長は、減給処分の形でみずからを罰したことにはなっているものの、本当は大館の歴史に泥を塗るほどの大事件であることを市長自身が自覚しているとは考えられない。むしろ、リコール運動に発展しなかったのが不思議なほどだ。菊地氏はそのあたりに論点を定めて取材を進めていくと予想とされる。

 といっても、同事件は市長だけの問題ではなく、市職員の失態の重さは先のコラムでも指摘した。また、「蛇足」として市職員の資質的問題にも言及したが、再び「蛇足」として述べさせてもらうなら大館市に限らず秋田北地方(大館、北秋田、鹿角)の市町村職員の資質は、政府機関や県職員に比べて劣るのは否めない。いや、むしろ市町村職員にも優秀な人材が多数いるのだろうが、資質的に問題のある者が少数いればそちらの方が鼻につくということなのかも知れない。

 一例をあげれば、定例議会時。記者があり余るほどいる地方紙なら、定例会初日に担当記者らがそれぞれの議会に散って資料を入手できる。しかし、マンパワー不足が課題のメディアだと、取材エリア内の全市町村議会をまわるにはむずかしいものがある。当新聞とて例外ではなく、結局、「行政報告で結構ですので、FAXのお手数を取っていただけませんか」と丁重に依頼することになる。

 それに対する市町村職員の対応の差は著しい。「全文メールでお送りします」といってくれるK市職員、「そういう事情なら協力しますよ」といってくれるT町議会事務局長、果てはきちんと依頼したにもかかわらず、うんともすんともFAXを入れてくれないK町とK村の各職員、FAX用紙がもったいないので取りに来いといわんばかりのA町総務課長補佐…。

 当然のことながら、これは市町村自体の問題ではなく職員個々に行政マンとしての誠意やサービス精神、かつ基本的な資質が過不足なく備わっているかどうかの問題で、"ほころび"の目立つ職員が1人でもいれば、その市役所、役場にとっても大きな損失を招く可能性を多分に秘めており、いずれは大館市のような農転事件も誘発しかねないことを指摘したいのである。コラムで銀行マンについても以前同様の指摘をしたが、公務員はエリートではなく、住民の血税で生活が成り立っている公共サービス従事者なのであるという認識を職員に再確認してもらいたい。

 「市民100条委員会」設立に向けた準備会の初会合は、18日午後7時から大館市中央公民館で開かれる。公務員としての責任の自覚、かつ資質を高めるためにも、市職員は同委員会の動向に対して関心を持つ必要があろう。市長や、6月定例会で100条委設置案を退けた議員の面々も然りである。

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