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第126回・令和2年6月24日
 
危機管理意識

  
 大館市立扇田病院の業務委託先元従業員(女性、北秋田市)による外来診療費着服事件に伴う民事訴訟は、原告の市と被告の業務委託業者(大館市)との間で和解協議に入ることになった。同事件が発覚した平成29年8月以降、「病院を経営する市当局にも責任、落ち度がある」と、筆者は結論づけてきた。今回は、市民の誰一人指摘しないこの問題に切り込んでみたい。

 現場(病院事務局)の危機管理意識の欠如、チェック体制の甘さも同事件を引き起こした一因、と筆者は考える。つまり、長期間にわたって同じ釜の飯を食いながら、なぜ早い時点で着服に気づかなかったか、という点。外部者に会計窓口を任せることの重大性、かつ、リスクを常に念頭に置いていれば着服額が些少の段階で事実を把握、阻止できたはずだ。

 そうした意味では元従業員の同僚、当時の直属上司、病院長、そして市長にも責任があるが、一貫して被害者面する市当局に対して議会はおろか誰も指摘しないのは残念の極みである。「犯行に及んだ本人が一番悪い」。それは当然だ。また、元従業員を派遣した企業にも責任の一端はある。しかし、事件に最も気づきやすい位置にいたのは業務委託業者ではなく、まさに現場職員らではないのか。公的機関、民間企業にかかわらず今後同様の事件を未然防止するためにも、今回の事件を教訓とすべきであろう。

 事件をおさらいしてみる。市は、平成22年(2010年)7月から市内の企業に扇田病院の医療事務を委託した。同社によって派遣された元従業員は同29年(2017年)7月までの間に約1億516万円を着服した、とされる。事件が発覚したのは翌8月。

 いつごろから着服に手を染めたのかは定かではないが、元従業員が会計窓口を担当してから着服の事実に気づくまで7年もの歳月が経過した。元従業員を信頼しきっていたのか、当時の同僚、上司は長い間何一つ不審に気づかなかったと推察される。おびただしい回数の着服を重ね、総被害額が膨大な規模に膨らむ過程で同僚や上司がまったく察知できなかったこと自体、驚き以外の何ものでもない。週に1度も帳簿と実額を照らし合わせていなかったのか、と指摘したくもなる。

 平成29年11月、市は委託業者と元従業員に対し、連帯で約1億516万円を損害賠償するよう民事訴訟を起こした。地裁大館支部で翌年1月に第1回口頭弁論、以降、17回にわたる弁論準備手続きを経て、今月18日の第2回口頭弁論で結審し、判決を10月15日とすることに決定。

 第2回弁論終了後、裁判官が和解協議を提案し、市と委託業者はこれを受け入れ、市は23日の議会厚生委員会で報告した。和解協議に臨めば市にも瑕疵があったことを認めることになるのではないか、などの指摘が議員側から出された。出席した病院事務局担当者は「協議=必ず和解」ではないとの考えを示した上で、市に瑕疵はないとあらためて強調し、賠償額の協議に応じると説明した。

 「瑕疵はない」。つまり、現場に過失はない、と市は一貫して主張。当然である。着服の事実に長期間気づけなかったとしても、「犯行を感知できずにいた自分たちにも落ち度はある」などとは言うはずも、言えるはずもない。なぜなら、約1億516万円は市当局が市民から管理を任されているにすぎず、純然たる市民の財産だからである。「使い込まれました」などと市民に泣き言を言える立場には、毛頭ない。ゆえに、一貫して「市に瑕疵なし」と主張し続けないと行政機関として面子が立たない。

 大きな疑問がひとつ。1億円を超える多額の着服金を、1人で使い切れるとは考えにくい。数百万、あるいは数千万規模で使ってしまったとしても、残りはどこへ行ったのか。市当局は、回収に向けた努力をしているのか。しているとすれば、いかなる努力をしているのか。この点は、何もわからない。残金の行方は業務上横領の罪で懲役3年6月の実刑が確定した元従業員のみぞ知るということであってはならず、1円でも多く回収するために全力をあげるべきだ。かすめ取られたのは市職員のカネではなく、市民の財産なのである。

 もし和解協議で決着をみるなら、和解金は約1億516万円などとは比較にならぬ額にとどまることは想像に難くない。そうなった場合、市は差額分を市民に対してどう埋め合わせするつもりなのか。市長が補てんするのか、当時の病院職員、院長が補てんするのか。誰もするはずはなく、市民の財産が闇に消えるだけだ。「着服被害だから仕方がない」と大目にみてくれる市民もいるだろうし、寛大ではない市民も少数派ながらいよう。

 この場を借りて、病院や市当局、市長に問いたい。「あなたたちの危機管理意識って何なの?」と。すべては、その欠落から招いた事件ではないか、と。