比内鶏は食べていいか 当店に原種比内鶏の生体や孵化用有精卵をご注文いただく際、お客様から時々ちょうだいするご質問があります。「将来的には家族で食べてみたい気もするのですが、比内鶏は食べることができますか?」。世の中の100人中95人ぐらいまで、「比内鶏は天然記念物なので食べてはいけない」と思い込んでいるとの印象を受けます。「天然記念物」の指定を受けている動植物でも野生のものは捕獲、採取が法律で禁じられていますので、必然的に食べることは不可能です。問題は、比内鶏のような飼育されていて、なおかつ天然記念物指定を受けているものの扱いです。 では、鳥類に限定して話を進めてみましょう。トキに代表される特別天然記念物は絶滅寸前の鳥なため、手厚い保護のもと、個体数の回復に向けた取り組みがなされています。もしトキを捕獲して食べて警察に知られた、つまり刑事事件として認知された場合、当然のことながら逮捕、起訴されます。 では、天然記念物の比内鶏はどうでしょうか。飼育下にある天然記念物の鶏は「数が少ないので大切にしましょう」ということで、天然記念物指定を受けているわけです。食べたとしても刑事事件になることはありません。ただ、前述のように数がとても少ないため、食べる機会が得られるのはこれまたきわめて少数しかいない飼育者か、その家族、親戚、友人、知人のぐらいのものです。 また、「比内鶏は天然記念物だから、食べてはいけない」という誤解が社会にまことしやかに"定着"しているため、「食べた」と公言すると、多かれ少なかれ「何という人だ。逮捕されるぞ」などと批判を受けます。つまり、食べても法的には問題ないにもかかわらず、食べるにあたっては"細心の注意"を払う必要があるというわけです。 ちなみに、比内鶏は当地、秋田県大館市(旧比内町)が発祥地ですが、一般市民のほとんどは食用に開発された比内地鶏は食べたことはあるものの、比内鶏を食べたことがある市民は前述のとおり、限りなく皆無に近いです。また、一生のうちに1度も目にすることなく生涯を終える人も95%以上はいるでしょう。要するに、比内鶏はいかに希少、かつ貴重な「お宝鶏」かということです。 ご承知のように、秋田県の郷土料理「きりたんぽ鍋」などの食材に使われる比内地鶏は、比内鶏のオスと米国原産の赤鶏ロードアイランドレッドのメスとの交配により、作り出されます。比内鶏と比内地鶏が味で勝負した場合、間違いなく比内鶏に軍配が上がります。"経験者"に「いや、比内地鶏の方が上だ」と異を唱える人はいないでしょう。 ではなぜ、比内地鶏の味をはるかに凌駕する美味にもかかわらず、比内鶏の肉は市場に出回らないのでしょうか。まず、天然記念物であることからもお分かりのように、著しく数が少ないこと。そして、比内鶏は比内地鶏より1まわり以上小ぶりなため、肉が多く取れない点が挙げられます。そうしたこともあって、肉量が格段に多い比内地鶏が試行錯誤の上、開発されたわけです。 極少数の中で比内鶏は、比内地鶏を作る基礎鶏の役割を担っているため、必然的に食用として市場に出回る機会はない、となります。PRじみた文言でこのコーナーを締めさせていただくのはいささか恐縮ですが、当店から原種比内鶏の生体や有精卵をご購入いただいて数を増やし、その中から食べる機会が得られるとすれば、世の中の誰も経験できない極上の鶏の味を楽しめる数百万人に1人の人、と表現しても過言ではないでしょう。
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