デスクの独り言

第85回・2008年2月29日

住民無視の工事 

 公共下水道工事は時代のニーズともいえるもので、全国どこでも行われており、当然のことながらここ大館市でも地区ごとに延々続いている。無論、現場最寄りの住民らは工事が支障なく行われるよう、協力を惜しまない。しかし、当の工事現場関係者の多くは住民のストレスが増幅しないよう細心の配慮を払っているかといえば、到底そうは思えない。ストレスたるやすさまじいものであるにもかかわらず、建設会社はそれを理解していないばかりか、市当局も現場に足を運んで指導しているふうもない。同市東台地内で行われている下水道工事を例に挙げてみたい。

 住民にとって重要なことの一つは、自宅前で工事が行われている際、クルマで出入りできる配慮がなされているのか否かという点。同地内では、数日前に始まった下水道の本工事より前に、水道の付け替え工事が行われた。付け替え工事が始まった直後、市水道課に確認した。「自宅のまん前なので、家人がクルマで出入りできるよう、工事関係者を指導してくれるんでしょうね」。これに対して、受話器の向こうで職員が「その地区での水道付け替えは、1日で終わる予定です。きょうあたり終わるんじゃないでしょうか」と応えたのとは裏腹に、工事は延々1カ月以上も続き、そのほとんどはクルマの出入りが不可能だった。出入りできない場合の仮駐車場は用意したというが、徒歩で往復30分近い位置に、である。

 そして下水道本工事。同課職員に対し、「具体的にいつから工事が始まり、そのうちの何日間、クルマの出入りができなくなるのか、対象世帯に告知してください」と要請したところ、職員は「建設会社に必ずそうさせます」と約束した。そして、完全にクルマが出入りできなくなるのは3日間だけです、とも言った。結局、工事期間や出入り不能期間を告知する書面など一切配布せず、工事は唐突に始まり、その間、日中のクルマの出入りは完全に不能状態にしている。つまり、市当局の約束はまったくの空手形で、建設会社は住民が受けるストレスなどお構いなしに工事を進めているということだ。

 平屋建ての古い家に住む人が、うんざりしつつこう言った。「この工事はいつまで続くのだろう。永久に終わらない気がする」。重機による振動たるや、「震度3」と形容しても過言ではない。家がみしみし音をたてて日中断続的に揺れる不快感と、そこから受けるストレスは現場周辺に住む者でないと理解し得ない。古い家屋に住む住民は、家が倒壊するのではないかと心配するし、棚の上の物が落ちることも珍しくあるまい。

 観察してみると、重機が地面を打ち据えて掘削する作業のほかに、アスファルトを含む土砂などをダンプに積み上げた後、荷台に積載したまま重機で粉砕している音が、とりわけ強い振動を生み出しているようだ。搬送場所に着いてから粉砕することも可能なはずなのに、住民が住むまん前であえてそのようなことをするため、結果、強烈な振動を延々住民に強いている。これはまさに、建設会社の配慮の欠如であるとともに、工事現場に足を運んで身をもって振動を体験しないため、指導するという発想すら湧いてこない市当局の怠慢から来るものであることは疑いの余地もない。

 そして、騒音。無論、振動とは別物で、これも午前8時半ごろから午後5時すぎ、日によっては6時半ごろまで、現場に住む住民は否応なくその中にさらされる。工事関係者は"渦中"にいるため、振動や騒音、かつクルマの出入り不能を含めて、住民がいかにストレスにさらされているかを鑑みるはずもなく、時おり笑い声を響かせながら夕方まで工事現場にいる。

 こんなことがあった。工事現場の通行担当者がクルマの行く手をふさぎ、「ここから先は行けない」と言った。「あっちをふさいでいるから、こっちに回ってきたんです。こっちも行けないなら、帰宅できないじゃないですか。家はすぐそこなんですよ」と返すと、そんなことは知らんとばかりに通行担当者は「あの重機が、あそこで作業をしている間は通れない」と言った。しばらく待った末に何とか通れたが、これはまだましな方で、通行担当者不在でどうしても通らなくてはならないためヘッドライトを点滅すると、工事関係者らは気づいているのに無視していることもあった。

 一連の"迷惑行為"は、公共工事が激減して建設会社にとっては厳しい時代であるという認識もそっちのけで、住民無視の工事を大手を振ってしていることの表れであろう。昨夜などは、不要にもかかわらず自宅駐車場のまん前にバリケードのようなものを置き、完全に封鎖していた。これでは、住民への嫌がらせと解釈されても、弁解などできない。さすがに堪忍袋の緒が切れて、建設会社に電話をすると、社員が「私は事務担当なのでよく分かりません」と言った。「現場監督のケータイに連絡して、あれをすぐにどかせてください」と語気を強めると、連絡を受けた戻ってきた現場監督が「これじゃ、通れんべなぁ」と、人ごとのように言った。

 一つ気になるのは、工期である。従来、公共工事には決められた工期があり、それを超えると1日ごとにペナルティーが科せられるのではないか。付近の下水道工事について市水道課に訊ねると、職員は「あそこはもうとっくに終わっていてもいいはずなんですけど、だいぶ長引いているんですよ」と返答した。契約を交わす段階で、工期は明確に定められるものではないのか。ペナルティーを科しているとは、到底思えない。科しているなら、建設会社は目の色を変え、いかなる理由があろうと工期中に工事を完遂しようとするはずだ。しかし現状は、長引けば長引くほど、それに比例して住民に及ぼすストレスも増幅する実態などお構いなし。

 住民に迷惑をかけずにきちんと工事が遂行されているか、それを確認するために市当局が日々見回りをしていないから、住民のための公共下水道のはずが、不快感を延々強いることになる。「住民無視の工事はするな」と、ほとんどの住民は、市や建設会社に抗議しないだろう。それは、じっと耐えているからにほかならない。公共工事一つにしても、住民にストレスや不便ををかけぬよう細心の配慮をする。それが発注、指導機関たる市のなすべきことではないのか。