憎きウイルス それは19日早朝のことだった。一瞬血の気が引き、蒼ざめた。ふだんインターネットに接している方なら、同じ瞬間に直面すれば10人中9人までは冷静でいられなくなると思う。何しろ"あれ"は唐突にやって来るのだから。 コンサートのポスターに使用する音楽芸術家の写真を早急に取り寄せたいので代わりにメールで受け取ってもらえないかと、ある人物から依頼を受けた。翌早朝、届いていた10個ほどのメールの中に、音楽家が所属する事務所からの送信があった。写真が添付されているはずなのに、「写真をメールで送りましたので、よろしくお願いします」という旨の文面しか見あたらない。そのメールの3分前に添付ファィルが届いている。それには何のタイトルも付されていないので妙だと思いつつも、写真を先に送って3分後にあいさつ文を送ったのだなと勝手に解した私は、いつものように添付ファイルをフロッピーに移動させようとした。添付ファイルをいきなり開かず、1度フロッピーに移し換えた上でウイルススキャンをする。いつもの自衛策。 その作業に入ろうとした刹那、パソコン画面にこれまで1度も眼にしたことのない表示が出た「あなたはウイルスを含んだファイルを保存しようとしています」という趣旨。ウイルス!? まだ寝ぼけていた頭が瞬時に覚醒した。あわててファイルを除去し、ダウンロードスキャン画面を開いた。感染とあった。覚醒したどころではない。一瞬パニックに陥り、これは現実か? CIAの陰謀か?とわけのわからぬ思考が頭の中を交錯した後、大脳のどこかで待機していたらしい「冷静」がすくっと立ち上がり、私に問いかけた。この時点で感染したというのはおかしいじゃないか。このコンピュータはお前に、ウイルスを含んだファイルを保存しようとしている、と警告してくれたわけだろ? その情報を得てお前はすぐにウイルス入りファイルを除去したんだろ? 寝ぼけてそれをぱかっと開いてしまったのならアウトということもあるだろうが、それを開かずに捨てたのだから感染するはずはないのだ。ダウンロードスキャンで感染と記されていたのは感染してしまったという意味ではなく、メールの中にウイルスファイルが存在するという意味なのだ。すぐにパソコンの中身をすべてスキャンしてみろと、私の中の「冷静」は理路整然と命じた。 約1時間を費やし、パソコン内のすべてのファイルをスキャンした結果、「冷静」の指摘どおり、どうやら感染は免れた。胸をなでおろした。実は、音楽芸術家の事務所から送られてきた添付ファイルだから大丈夫じゃないか、とスキャンせずに開けようとしたのだ。それをしていたら、有無もいわせず感染し、パソコンに蓄積していた膨大な情報が一瞬にしてお釈迦になるところだった。1度保存しようとしたからよかったものの、無防備に開いたいたら今ごろは、と考えただけでぞっとする。確認の結果、わずか3分のタイムラグの差とはいえ、その事務所が送った添付ファイルではなく、愉快犯の仕業であることが判明した。 そういえば、お世話になっている秋田県南日々新聞の伊藤正雄さんも「よく知っている人からのメールだったんで、開いたみたらウイルスにやられちゃって。あのときは回復させるのに苦労したよ」と頭をかいていた。既知ウイルス数は今現在で約68,000種。ほとんどのウイルスに対処できるようソフトが市販されているが、ウイルスを作り出して世界中にまき散らす悪党は日夜新種を"研究"しているというから、最新のウイルスは市販のソフトが追いつかない種類もあるようだ。1ヵ月ほどしてから症状が表れるのもあるらしい。そこで、人に大迷惑をかけて悦に入っているウイルスメーカーたちにいいたい。それほどハイレベルな技術を持っているなら、世界のIT発展のために役立てろ、と。しかし彼らはDNAレベルで人間性に異常をきたしているので、聞く耳など持っているはずなどないのだが。 半月ほど前、数万人のメルマガ会員を持つある企業を騙って、全国の会員にウイルス入りのメールがばらまかれた。私も会員だったのでそれを受け取った。確かに発信アドレスはその企業になっている。しかし、その企業が添付ファイルのメルマガを配信したことはなかったし、第一、本文に何もかかれていない。!ときて、すぐに削除した。その日のうちに、企業から「謝罪」メールが届いた。「今詳細を調査中ですが、何者かが弊社を騙ってウイルスメールを配信した模様です。当面、メルマガ配信を休止させていただきます。大変ご迷惑をおかけしました」と記されていた。間違いなく、その企業にとっては甚大な被害である。その企業も被害者に違いないのだが、世間は同情の眼で見てはくれない。その企業に対して「ブラック」のイメージを持ってしまうのである。そうした意味では、コンピュータウイルスはとてつもなく恐ろしく、作り出した人間の陰湿さ、精神の異常さがこれでもかというほど感じられる。 こんなこともあった。Yahoo!JAPANでアダルトサイトを見ていた友人が動画をダウンロードしたら、ウイルスに感染した。Yahooに登録されているサイトだから大丈夫だろうと、安易に考えていたという。激怒した友人はYahooに対し、「まじめなサイトが何度申請しても登録してくれないくせに、悪質なウイルスを含んでいるろくでもないアダルトサイトを登録しているのはどういうわけだ」と、メールで抗議したらしい。その日のうちに回答が届いた。「たくさんの方が申請なさっているので、登録を見送らせていただくことも多々あります。ご理解下さい」と。結局、「臭い物に蓋」で、「どのアダルトサイトですか。すぐ削除します」などとは、一行も記されていなかったという。そこから得る教訓はこうなのだろう。「Yahooの検索エンジンを過信するなかれ」「アダルトサイトを見るなら心してかかれ」と。 いずれにせよ、次から次へとウイルスを作り出して世界中にばらまく奴は、究極の悪党である。社会を混乱させかねない。いや、ある意味ではすでにさせている。市中引き回しの上、生涯パソコンにさわらせないという極刑に処すべきである。 |