デスクの独り言

第67回・2005年7月25日

施設を託す意味

 県内でも指定管理者制度への移行が進んできているが、民間企業などに公的施設の管理を委ねるこの制度は、本当に住民サービスの向上につながるのだろうか。また、同制度への移行によってその施設のイメージを対外的に損ねないと、本当に保証できるのだろうか。今回は、秋田北地方の二つの市でみられた事例を紹介しながら、この点を少し掘り下げてみたい。

 そもそも指定管理者制度とは何か。県や市町村など地方公共団体が、民間企業などに公の施設の管理を代行させる制度で、15年9月の地方自治法改正によって創設された。「公の施設」には公園、運動場、体育館、宿泊施設、美術館、博物館、文化会館などが挙げられる。

 同制度創設の背景には、民間企業も十分なサービスを提供する能力があることや、多様化する住民ニーズに効果的、効率的に対応するには、公の施設の管理に民間企業などがもつノウハウを活用しながら住民サービスの向上を図るとともに、管理運営費の縮減を図ること、などがある。

 県も、北部老人福祉総合エリア(大館市)、北部男女共同参画センター(同)、北欧の杜公園(北秋田市)、大館能代空港周辺ふれあい緑地(同)、奥森吉青少年野外活動基地(同)、八幡平オートキャンプ場(鹿角市)、金属鉱業研修技術センター(小坂町)の秋田北地方関係7施設を含む県内42施設について来月19日まで指定管理者を募集しているなど、同制度への移行に向けて着々と準備を進めている。また、指定管理者(候補者)選定委員会の委員も、今月11日までに県民からの公募を終えた。

 詳細を明かすと差し障りがあるため、同地方のA市に所在する屋内観光施設、とだけいっておこう。この施設からは、年度実績や上半期実績など年4回ほど入館者数の取材をし、記事掲載してきた。最近では、4月に16年度実績を取材した。この施設に対する実績取材は、基本的には電話で行っており、常に2人のうちのいずれかの女性職員が応対し、快く入館者数を教えてくれていた。

 今月上旬のこと。今年上半期の入り込み実績を問い合わせるために、同施設に電話を入れた。聞き慣れぬ声の年配らしき男性職員が応じた。「担当者がきょうは休みなので、そちらで聞いてもらえますか」と彼は、ある電話番号を教えた。この施設は、4月1日から市が地元の企業に指定管理者の委託をしている。男性職員が教えたのは、管理を請け負っている企業の電話番号だった。

 教えられた番号にかけ直した。受話器の向こうで応対した女性社員に、妙な違和感を禁じ得なかった。実績を教えてほしいと伝えると、教えられません、といかにも情の薄そうな声質で返した。そんなはずはない。同市の屋内観光施設の代表格ともいえるこの施設は、この企業が買収した施設ではない。この企業は事実上、市の下請けで管理者になっているにすぎない。市に報告しているので担当課に聞いてほしい、というのならまだ納得がいく。しかし、単なる下請けが「教えられない」では道理にあわない。

 「これまで何年も何の不都合もなく入館実績を取材してきたのに、なぜ今になって教えられないのか。4月には昨年度実績も施設の事務局から取材している」と食い下がると、中年らしき女性社員は不愉快そうなトーンを保ちつつ「ちょっと待ってください」といった。ややして、受話器の向こうの声が比較的高齢らしき男性に変わった。「だめだよ、教えられない。誰だ、あんた」と男性は、女性社員以上にぞんざいな口でいい放った。

 不躾さにむっときたが、堪えて自己紹介し、「失礼ですが、どなたでしょうか」と訊き返すと、「社長の○○だ」と強い口調で尻上がりにいい、男性は「今は会社の経営の一環にあるんだから、教えられない。電話ではなおさらだ」と、最後まで語気の荒さを緩めることはなかった。無論、一字一句、どこにも丁寧語は存在しない。さながら子どもに語って聞かせる口調である。典型的な、いばりタイプの代表者だと直感した。

 合点がいかなかったが、この者に理屈は通じないと判断し、「わかりました」と受話器を置いた。時間の経過とともに、社長の横柄な態度に対する不快感が膨らんできた。誰にでもあのような態度を取っていると推察される。市の商工観光課に電話を入れてみた。やや驚愕に値する事実を職員の口から聞かされた。「私らも困ってるんですよ」。聞けば、この企業は下請けでありながら、入館実績を報告するよう市が指示しているにもかかわらず教えてくれないのだという。また、あることで観光客がその社長に叱責されたともいう。報道関係だけではなく、上の立場にある行政、さらには観光客にまで不快な思いをさせていたのだ。

 これでは何のための指定管理者か、と疑問符をつけたくなる。サービスを向上してイメージアップを図るどころか、明らかに各方面に対して心象を悪くしている。もう一つの問題は、管理を委託した側、つまり上の位置にある市がこの企業、この社長に対して、「これではいけませんよ」と注意できずにいる点である。加えて、社長の横柄さが社員に"伝染"している点も、見過ごしにはできない。

 くどいようだが、この観光施設は一企業の持ち物ではなく、市の貴重な財産なのだ。もっと平たく形容するなら、市民みんなのものだ。市は指導的立場として、この企業、代表者にしっかりとそれを理解させ、従わせなくてはならない。でないと、指定管理者はこのままでいいと誤認、増長し、行政がこれまで培ってきた観光施設としての価値やイメージを台なしにしてしまう。どのような接客マナーで応対しているのか、などを含めて指定管理者を厳重に監督しなければならない。その部分が非常に希薄な印象を受ける。指定管理者が純然たる民間であっても、第3セクターであっても同様で、発注者は受注者に、仮に相手が社長で行政側担当者が平職員であっても毅然とした態度で臨まなくてはならない。

 一方、同地方のB市は、市内の計6施設について、都内に本社を置く企業に4月から指定管理を委託した。指定管理者に選ばれた企業は、4月に各施設の入り口に「お客様第1主義」という趣旨の紙を貼り出し、市民サービスの向上に努める旨をアピールした。

 この中のある施設は以前から、選挙の開票作業所としても利用されている。この施設にはたびたび投票率などを取材し、日曜日の場合は年配の臨時職員が快く応対し、選管職員を電話口まで呼んできてくれた。

 だが、今月行われた選挙取材で電話を入れ、選管職員の呼び出しを依頼したところ、受話器を取った指定管理者の企業の社員が与える印象は、明らかに以前の臨時職員とは違っていた。言葉の端々から、ここを管理するのが仕事だ、電話番じゃない、という大手企業の社員特有の気位の高さと依頼を受けたことへの面倒くささを、はっきりと感じさせた。不快そうな態度で、それはすぐに分かる。報道に対してそうだということは、一般市民にも誠意を感じさせない応対をしている可能性が多分にあるということだ。

 いずれか1件であれば、コラムで指定管理者について論ずることはなかったが、秋田北地方の二つの市で気になる事例に接したため、一石を投じてみた。指定管理者に施設を委ねるということは、ある意味賭けのようなもので、委託する相手を間違うと、これまで培ってきたイメージや信用を著しく損ないかねない。指定管理者には施設を丸投げ状態にせず、地域住民や観光客へのマナーなどを含め、行政は日々厳しく指定管理者に目を光らせるべきである。