第52回・2003年11月14日 数の論理 全町民に市町村合併の是非を問う比内町の「町民意向調査」は、12日に選挙体制で"開票"作業が行われ、有効回答の半数をわずかに上回る4,204人(全体の50.14%)が、合併「反対」の意思を示す結果となった。同町の大沢清治町長は、この結果を尊重するとし、合併せずに自立の道を歩む決断を下した。そして、来月7日に予定している大館市・比内町・田代町・小坂町任意合併協議会(会長・小畑元大館市長)の席上で、同協議会からの離脱を正式に"宣言"する方針を14日までに固めた。 大沢町長に対して、真っ先に感じたのは「その決断は、いかがなものか」ということである。これが正真正銘の選挙なら、たとえ1票差であろうと、勝負は勝負と断ずることができる。しかし、今回行ったのは選挙ではなく、近隣市町との合併によって比内町が市となるか、このまま比内町として生きていくか、を決めなくてはならぬ町民意向調査だ。永住外国人を含む18歳以上の全町民1万178人(3,677世帯)を対象に実施し、83.18%を占める8,466人が回答した。そのうち有効は8,385人、無効が81人。有効のうち合併に「反対」が4,204人(50.14%)で、「賛成」が2,918人(34.80%)、「わからない」が1,263人(15.06%)と、有効回答のぎりぎり半数超が「反対」で占められた。 確かに、「反対」を支持する数は3択の中では最も多い。また、先月町内各地で開かれた合併に関する懇談会では、地区によっては合併への不安を背景に「反対」一色の意見で占められたこともわかる。だが、今調査では合併「賛成」を支持している町民は、回答者の3人に1人以上にのぼるほか、「わからない」も15%と微妙な意味合いを持つ比率である。中でも「わからない」は、町側が今後さらに合併に関するさまざまな情報を提供することによって、少なからずが「賛成」にまわる要素すらはらんでいる。 にもかかわらず、合併「反対」過半数という結果のみを尊重し、「比内町は合併しません」と断じたのに対しては、数の論理だけで"比内丸"を大きく方向転換させようとしている姿だけが浮かび上がってくる。当然のことながら、4市町の合併によって地域の発展を切望する町民からは反発も出よう。何より問題なのは、「賛成」の2,918人がまったくの"死に票"になったということである。確かに特例法に基づく合併までの時間は限られているが、といって、まだカウントダウンの時期を迎えているわけではない。本当に今、「反対」過半数のみを尊重していいのか、いささか疑問だ。 小坂町は大館圏域と合併すべきか、鹿角市と合併すべきか、川口博町長の中でも未だ大きく揺れていることと思うが、少なくとも大館市の小畑元市長は比内町との合併に対してはきわめて大きな期待を持って取り組んできたはずである。同市に事務局を置く大館市・比内町・田代町・小坂町任意合併協議会も、比内町が加わることを大前提に合併後をシミュレートしているほか、比内町が一員であることを基本に据えながら事務的努力をしてきた。 そうした中で、今になって比内町が抜けるというのは、近隣自治体や任意協にとっても迷惑なことこの上ない。周囲に迷惑をかけないためにも比内町は、任意協に加わる前に住民に合併の是非を今回のような形で問う必要があったのではないか。それからすれば、鷹巣・阿仁地域5町村の中で最初から「われ合併せず」を貫いてきている上小阿仁村の北林孝市村長の姿勢は、近隣自治体に迷惑をかけることもなく、一貫したその姿勢はむしろ同村長の気骨すら感じさせる。 しかし、これとて財政基盤の弱い同村が、単独立村していけるのかどうかという点では村内にも賛否両論あり、北林村長の姿勢に対して将来的に村民から「やっぱりあの時、合併しておけばよかった」との声が出ない保証はどこにもない。もしそうなった場合、「村長の意固地のせいで、われわれ村民は周囲に取り残された」ということにもなる。それは比内町の場合もまったく例外ではなく、いくら町長が「行政改革をこれまで以上に推進していく」などと自立の道を強調したところで、今後さらに深刻化する過疎、少子高齢化、生産年齢人口比率の低下、産業の底力が乏しいなどさまざまなマイナス要因を背景に、町単独では今以上に厳しい状況下に置かれていくのは眼に見えている。まして、比内町の財政状態は近隣市町村同様、お世辞にも良好とはいえない。 くどいようだが、大沢町長に対して「本当に比内町は合併せずに生き残れるのか」と問うてみたい。ただ、ここで町長や合併「反対」とした町民に誤解していただきたくないのは、今コラムでは「合併した方がいいですよ」といっているのではない。「合併反対を支持した50.14%の数字は、真に即決の重さを持つ決定的数値なのか」と質したいのである。多くの歴史をみてもわかる。数の論理によって、人類はあまりにも多くの過ちを犯してきたことを。まだ遅くはない。町長はさらに熟慮すべきだ。 大館市・比内町・田代町・小坂町任意合併協と、かづの地域任意合併協(会長・佐藤洋輔鹿角市長)の2つの任意協に参加している小坂町の川口町長も、きわめて重要な決断を迫られる時期にさしかかっている。川口町長にすれば、「鹿角は1つ」の思いは強いはずである。精神論的には鹿角に向いている、と思える。古くは「南部」に遡り、鹿角地域住民の気質は、鹿角市、小坂町とも非常に似た傾向を感じさせる。それは明らかに大館圏域住民の気質とは異なる。 が、大館圏域との合併は精神論ではなく、「実」を取ることになる。小坂町にすれば、鹿角市と合併するより大館圏域と合併することの方が、スケールメリットという観点からすればいくぶんなりとも大きいはずだが、川口町長の性格をもとに推察すると「鹿角と心を1つにする」方向を同町長が選択するように思えてならない。まして、大館圏域の任意協から比内町が抜けるとなれば、それだけ大館圏域との合併に対してメリットが薄らぐことにもなる。そうしたことからしても、今回の比内町の「いち抜けた」に対し、小畑市長などは歯軋りをしたいほどの思いで受けとめていることは想像に難くない。比内町の離脱は、さまざまな観点で均衡化しようとしていた市町間のバランスを崩す要素を包含しており、大館圏域の合併は大館市と田代町だけの可能性が出てきたことも否めまい。 最も理想に近いのは、大館圏域3市町、鹿角圏域2市町、鷹巣阿仁圏域5町村の計10市町村、つまり秋田北地方が大同団結して1つの市を構築することなのだが、それは絵に描いた餅どころか"絵にも描けない餅"であり、絶対といっていいほど不可能であろう。ただ、ここで1つ忘れたくないのは、大館能代空港を県北住民の悲願として誘致する際、県北市町村が過去の歴史になかったほど一致団結したことだ。当然、空港誘致と市町村合併とは尺度が違うが、「みんなで一緒になってがんばろう」という気持ちは持っていたいものである。その気持ちを大切にしていさえすれば、いつかは足腰の強い"大所帯"を形成できるのではないか。「唯我独尊」もよかろうが、「協調」こそが市町村合併には最も必要不可欠なのである。 |