デスクの独り言
                           
第47回・2003年3月28日

赤字と血税

 大館樹海ドームや大館市民文化会館などを管理、運営する同市文教振興事業団が、昨秋同ドームで開いたモーニング娘のコンサートで2,800万円もの赤字を出したのは、市民にとっても記憶に新しいところである。当コラムでこの問題に触れるべきか否かを迷いつつ、数カ月が経ってしまった。赤字の穴埋めは結局、市民の血税以外に手段はないこと。また、27日に初会合を開いた同事業団運営検討委員会は今回の問題を発端とする種々の意見集約を約3ヵ月かけてまとめる、などという悠長な姿勢に憤りを禁じ得ず、批判見解を明確にすることにした。

 モーニング娘はアイドルとして"1級品"であることを、初めに断っておく。つまりは、「モーニング娘を呼んだばっかりに大赤字を出してしまった」では弁解にもならず、事業団、そして大館樹海ドームというプロモートに対するズブの素人集団が大ステージを組もうとしたところに大きな問題があった以外の何ものでもない。

  昨年夏には、ドームのオープン5周年「サマーフェスタ」と銘打ち、かつて一斉を風靡したフォーク歌手をドームに招いてコンサートを開き、約1,200席の大館市民文化会館大ホールの半分程度の観客しか動員できなかったことでも、いかに主催団体が素人集団であるかを物語っている。歌手、アーティストにとって、観客の少ないガランとした場内をステージ上から見ることほどつらいことはない。それはとりもなおさず、本来果たすべき誘客の努力を主催者側が真にしていなかったことの表れであろう。

 主催者側が本来果たすべき誘客の努力とは何か。無論それはチケットを売るための努力だ。宣伝カーで市内を巡り、プレイガイドにお願いしてまわり、ローカル紙に単発的な広告を掲載する。そんな生やさいことではない。あらゆる機会をとらえてドームの事務局職員や事業団関係者らが市内や近隣市町村の団体、企業、場合によっては家庭までも訪問し、頭を下げて血を吐く思いでチケットの1枚、1枚を売ることこそ真の努力なのである。

 なまじSMAP公演などで成功したような錯覚もあるものだから、今回も「モーニング娘だ。売れるべぇ」などと、たかをくくってしまう。そのツケともいえる2,800万円の大赤字を毎年500万円の分割払いで、血税からイベント会社に払わされたのでは、市民もたまったものではない。これが民間企業なら、担当者や責任者は解雇か左遷、社長を含む役員陣からも詰め腹を切らされる者が出よう。

 しかし、事実上の行政ともいえる同事業団、ドーム館長(今月末で退職)、職員らにさしたる責任は及ばない。つまりはお役所なのである。民間企業と事業団(行政)とでは、責任の性格がおのずと違う。民間企業は、大きなミスや誤算が倒産をまねく。それが行政となると、市民が迷惑をこうむる。モーニング娘に限らず、コンサートなどのイベントの事実上の出資者は、好むと好まざるとにかかわらず市民なのである。それを遂行するための権利と責任を事業団に委ねたにすぎない。大きな責任を負わされた事業団は、絶対に市民に迷惑をかけぬ体制で事にあたらなくてはならないのだ。

 今回の大赤字について市当局は、コンサートの対象年齢が低かったこと、チケットが完売したという噂が流れたことなどが主因、などと釈明している。笑わせるな、といいたい。観客対象年齢が低いのは起案当初からわかりきったことで、モーニング娘に大の大人が大挙するなど予想すらできぬではないか。大館の地理的条件、交通事情、宿泊事情はもとより、市内や周辺地域にターゲットとしての想定が可能な青少年層がどれぐらいいるか、市内や近隣のレコード店でモーニング娘のアルバムはどの程度売れているか、巷の人気度はどうかなど、あらゆる状況や条件をシミュレートした上でモーニング娘を呼ぶかどうかを決めなくてはならなかったはずだ。

 その努力、検討は十分にし切れたといえるのか。イベント会社の「今イチオシです。大館でも絶対イケますよ」などという宣伝文句を鵜呑みにして飛びついたのでは話にならない。イベント会社は企画戦略やチケット販売の支援までしてくれるのではなく、アーティストをセールスし、コンサート当日の体制をある程度フォローする営業体にすぎない。

 また、チケットが完売したという噂を払拭するために、事務局は胸を張って「最大限の努力をした」といえるのか。ステージの器が大きければ大きいほど、マイナス要因への善処の仕方が最終的な動員数に多大な影響を与える。そうした事柄を総合的にみると、まったくの素人集団である行政マンらが背伸びをして大興行を仕掛け、大赤字のツケを市民に払わせようとしていると断じられても仕方がない。

 この失策は事業団理事長をはじめとする役員ら、ドーム館長、職員ら、はては小畑市長にまで及ぶべき問題だ。「これからは失敗しないようにして下さいね」などと甘い言葉をかけてくれる市民ばかりではないことは、市議会からも痛切な批判が相次いだことでもうなずけよう。月々返済すべき500万円の一部は、その責任として市長以下かかわった者たちの減給で対応して然るべきぐらいのものである。

 自主事業のあり方に対する問題は、ドームに限ったことではなく、大館市民文化会館もステージ事業の入りでは決してかんばしい実績をあげているとはいえない。同会館は今年、6月にテノール歌手の錦織健、7月にロックのT・M・Revolution、9月に津軽三味線の吉田兄弟の各出し物を大ホールで上演するなど、多額のプロモート予算を計上する。確かに、どれも入りがよさそうな"物件"にみえるが、大館は基本的にチケットが飛ぶように売れる土地柄ではないことは、文化会館事務局職員らは、肌で実感してきているはずだ。

 民間プロモートではないので、黒字を出すぐらいなら可能な限りチケットを安く市民に提供すべきなのはいうまでもない。それ以上に大事なのは、たとえ行政やそれに準ずる事業団の主催であろうとも、決して赤字を出さない"一球入魂"の決意で臨まなくてはならないということである。この不況時に行政の台所もことのほか厳しく、本来有効活用すべき財源をプロモートの赤字補てんにまわされたのでは、血税を払わされる市民が怒るのも無理はない。

 と、ここまで厳しい指摘をすると、事業団関係者などから「プロモートのイロハも知らないくせに、何をいってるんだ」などと罵詈雑言が飛びそうだ。だが、前述の事柄はすべて、プロモートの経験上の指摘である。テレビ局とテーマパークが有名アーティストを呼んでコンサートを開いた際には企画、制作を担当させてもらったし、大館市の近隣自治体にアーティストを営業販売したこともある。そこから学んだことは、興行ほどハードで博打性の強いものはないということだ。

 あるテレビ局の事業部長はいった。「興行は儲からない仕組みになってるんだよ」。その見解は正しい。儲かるのはアーティストが直接所属している事務所と、関連会社の営業プロダクションだけだ。今回モーニング娘を事業団に販売したイベント会社のような企業もそれも属する。ステージを買い取った地方の現場は、苦労のわりに儲からぬばかりか、失敗したら大打撃という恐怖が開催前から終始つきまとう。

 万全の体制で臨んだにもかかわらず、当日観客が入らないと、がっくりと肩を落としてしまう。場をこなした業者ですら失敗するのに、ズブの素人集団の行政マンらに大仕掛けのステージがうまくいくなど、奇跡に等しいのである。大ステージとはそもそも、興行企画のプロスタッフを総動員し、緻密な計算の上で事にあたるべきものだ。今後はきちんとした認識、事前リサーチで臨み、決して市民に尻拭いさせぬことを強く望む。それができないなら、初めからやらないことだ。

 今回の大赤字を発端に27日発足した同市文教振興事業団検討委員会で示された「約3カ月かけて意見をまとめる」などという悠長な姿勢には、到底納得のいくものではない。事業団の自主事業や組織の見直しを含む反省点、改善点について、興行失敗直後に委員会なりを発足して年内に意見集約と対策を固めるべきだったのである。そうすれば、新年度に向けて何らかの指針が得られる。今発足して約3ヵ月かけて意見を集約するとは、お粗末にもほどがある。これから3カ月といえば、もう夏だ。同委員会のメンバーは、事の重大性をどう考えているのか。話にならぬとは、このことである。

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