デスクの独り言
                           
第4回・13年6月11日

なぜ十和田湖の観光客は減るのか

青森県文化観光推進課は7月1日公表をメドに、昨年の青森県側十和田湖の入り込み実績の集計作業を進めている。あきた北新聞社が位置する大館市からちょうど1時間の道のりなので、取材方々十和田湖にはよく足を延ばす。最近、驚かされることがあった。十和田湖を訪れる観光客の姿があまりにも少ないのだ。土、日、祝日ならともかく平日に至っては宿泊施設、土産物売り場、遊覧船乗り場とも閑古鳥。宿泊施設は、宿泊客数より従業員の数の方が多いこともたびたびという。秋田県側の十和田湖は平成10年に100万人を割り込み、昨年はついに90万人を切った。そして、十和田湖のシンボルともいえる乙女の像がある青森県側十和田湖は平成9年に300万人を割り、今回明らかにされる調査結果では250万人割れが確実視されている。このままいけばどこまで減ってしまうのだろう、と心配したくもなる。

さる9日、4人で十和田プリンスホテルに宿泊した。担当係長が知り合いなので私が予約を入れた。係長の返事に驚いた。「すみません。宿泊は7月1日から営業開始なんですよ」。全国的にもブランドであるそのホテルは例年、4月の十和田湖観光開幕とともにシーズンの営業を再開していた。それが今は、4月からレストラン部門だけ営業を再開し、初夏の観光シーズンともいえる今の季節、宿泊は受け付けていないという。夫妻で大曲市から来る知人は「昔から泊まりたかった憧れのホテルなのでとても楽しみ」とメールを送ってきた。がっかりさせるわけにはいかない。といって、宿泊営業をやっていないのに「開けろ」ともいえない。結局、翌日結婚披露宴があり、前日入りのお客さんたちが何人か宿泊する可能性があるので、がんばって調整してもらえることになった。とりあえずは、大曲の知人を落胆させずに済んだ。

当日行ってみると、ホテルの正面玄関に「きょうは貸切となっております」との看板が立てかけてあった。豪華ホテルの貸切。ちょっと味わえないリッチな気分。1人分の料金で十和田湖の湖面を一望できるツインの広々とした部屋を使わせてもらった。係長はだいぶがんばってくれたに違いない。その係長と、ホテルをチェックアウトする前に話をする機会があった。鹿角市の高校卒業以来、十和田プリンスで働いて13年。かつてはスキーの国体選手だったと記憶している。本音で話してくれるタイプ。その彼がいうには、とてもペイできないので昨年から4、5、6月は宿泊業務を中止しているという。「レストラン部門は儲かってるんですか」と訊くと、係長は言葉を発する代わりに、かぶりを振ってみせた。やればやるだけ業績悪化につながることほど経営上つらいことはない。十和田プリンスの眼と鼻の先で事実上小坂町が経営していた宿泊施設「ニュー十和田カルデラ」も今年から完全休業に入ってしまった。やればやるだけ累積赤字が膨らむ。いくら公の施設とはいえ、運営経費は町民の血税で賄われているわけだから、民間同様、つらい。

十和田湖になぜこんなに観光客が来なくなったのか。ともに宿泊した印刷会社の社長がこう指摘した。「十和田湖の宿泊施設は、修学旅行だけを大切にする造りやサービスをしている。結果、家族づれなど小グループを大切にしないから、今になってそのツケを払わされている」と。放漫経営で親が2億6千万円の累積負債を残し、「首を吊るしかない」状況に追い込まれたにもかかわらず、見事に立て直した44歳のやり手社長。筆舌しがたいほどの地獄を見てきているからこそ、人の痛みが十分に分かる人物。自分だけが私腹を肥やせばいいという経営者が多い中で、このような人物にはめったに出会えない。だからこそ講演でも引っ張りだこだ。その彼が口にする十和田湖宿泊施設批判論は、やはり説得力がある。あとは十和田湖の宿泊施設経営者らが、そうした指摘に耳を貸すだけの度量があるかどうかだ。

10日ほど前、十和田湖遊覧船発着場のある休み屋で、不快なことがあった。遊覧船のチケットを販売する建物のそばに50台ほど駐車できるスペースがある。修学旅行もピークだろうと思い、遊覧船を下りる修学旅行団の写真を撮ろうと休み屋に着くと、いやな予感がした。平日ということもあるのだろう、修学旅行の団体どころか観光客の姿はほとんどなく十和田湖全体が静まり返っている。もちろんチケット売り場近くの駐車場には車の姿などない。代わりに、どこからかツーリングしてきたらしい10台近いバイクの群れがその駐車場を陣取るようにして、観光客に記念写真撮影でも売り込むのであろう50半ばの男と話し込んでいた。

その駐車場に私は何度も駐めた経験があるので、ほんの少しだけ駐めて遊覧船発着場に向かうつもりでいた。50半ばの男はつかつかと車に近づき、「だめだよ、ここに駐めちゃ、あっちだよ、あっち」とおよそ接客マナーなど糞くらえという口ぶりで、そこから300メートルばかり離れた方向を指差した。「そうですか」と反論するでもなくそちらに移動すると、入り口に「有料駐車場」と書いてある。確か、1時間300円。1台もない駐車場に駐まらせず、カネを出してあっちへ駐めろというのだ。十和田湖を訪れる者を粗末にするにもほどがある。このような者が十和田湖の表玄関にいるから、十和田湖そのものも閑古鳥が鳴く羽目になるのだ、と憤った。有料駐車場には駐めず、そのまま大館に引き返したのはいうまでもない。

4月にはこんなこともあった。その駐車場近くの食堂に友人と入った。客は小さな子どもを連れた4人家族だけだった。「お茶はセルフサービス」と書いてあったので備えつけの湯呑みとポットを手にしたら、厨房では70を過ぎた目つきの悪そうな老人が「いらっしゃいませ」というでもなく、じろりとこちらをにらんだ。「感じ悪いね。出ようよ」と友人はいった。結局、椅子に坐ることなく食堂を後にした。

東北が世界に誇る十和田湖を一目見ようと遠路はるばる全国からやって来ても、観光客が十和田湖に来たがゆえに不快な思いをしたのでは何にもならない。そうした不快な連中はごく少数で、観光客に心から喜んでいただきたいという経営者が実は大半なのだと思う。しかし、少数の心ない存在こそ観光客にはとても目立ったりする。自分は十和田湖を代表する営業マンなのだという認識があってこそ接客マナーも向上する。それがないと十和田湖が十和田湖たらんとする意味がない。なぜ観光客が加速度的に減っているのか。十和田湖を生活の糧とする方々は、胸に手を当て、もう一度よく考えていただきたい。