デスクの独り言
                           
第30回・14年3月15日

秋田県庁

県民が真剣に事業に取り組もうとした場合、国や県の補助金が得られることは望ましい。しかし、秋田県の場合、先進地の長野県などと違い、補助金が得にくいだけではなく、担当窓口もいささか融通が効かないことを痛感させられたケースを紹介したい。

秋田北地方で自由業を営むAさんは、比内地鶏を全国に出荷して地場産業の振興と雇用創出に結びつけようと意気込んでいる。名づけて「比内地鶏1万羽生産計画」。やみくもに取り組むのではなく、全国の飲食店を束ねる連合会組織や長野県の商工業者らとすでに親密なパイプを構築している。BSE(牛海綿状脳症)が"追い風"となって、昨年来、比内地鶏は売上が急増しており、一気に波に乗ろうと比内町の比内地鶏生産部会なども14年度は本年度を26,000羽上回る163,000羽の出荷計画を掲げている。こうした中、Aさんの計画はすでに販路を確立しての堅実な取り組みなわけだが、何分にも資本力が心もとない。

そこでAさん、秋田県企業支援センターが国、県の支出による「地場産業創出等支援事業補助金」の14年度受け付けをしているのを知り、同センター事務局から申請書を取り寄せて提出した。申請書を仕上げるには長い時間と労力を要するが、地場産業たる比内地鶏の生産と販路の拡大というスタンスは十分補助金を得るに値する、と張り切ってAさんは提出。ちなみに、同補助金への応募は全県でわずかに4件だった。

ところが、同センター事務局から申請書郵送の翌日早々に連絡が入り、「申請書をお返しします」と半ば突き返された。「これは商工業のための補助金であって、農業には補助できません。事前に相談してくれたらよかったのに」とのこと。「比内地鶏1万羽生産計画」は農業(養鶏業)と商業を融合した取り組みだが、その点を説明しても杓子定規な担当者にはまったく通用しなかったらしい。納得のいかないAさんは旧知の仲である県会議員のもとへ出向いて相談した。農業にきわめて明るいその県議は膝を乗り出してAさんの話に聞き入り、その場で県庁の農政部最高幹部クラスに電話を入れ、後日、同席して働きかけることになった。

そしてAさんが県庁を訪れたのは今から3週間ほど前。県庁内で待機していた議員は、親族が亡くなったとのことで急遽帰らなくてはならなくなり、結局、Aさんは議員の同席を得ぬまま農政部の幹部と面談した。補助金は無理でも何らかの融資に道が開けるのではないかと期待していたAさん。しかし、企業支援センター同様、ここでもがっくりと肩を落とさねばならなかった。農政部の幹部いわく、「あなたがやろうとしているのは農業でもあり、商業でもあるわけですね。これは融資上まったくの盲点で、どの制度にも該当しません。どうしても融資を受けたいならあなた自身が農家になって、あらためて北秋田総合農林事務所に相談に出向いて下さい」。

こうなるとアドバイスではなく、官僚特有のたらいまわしである。おもむろに鞄から一冊の冊子を取り出したAさんは応対する幹部2人に差し出し、語り出した。「長野県ではですね、事業熱意のある県民に1人でも多く補助金を出そうと、細部にわたって補助メニューを設けているんですよ。しかるに秋田県の場合は…」。長野県と深いつながりをもつAさんは、同県があらゆる面で秋田県をしのいでいると、常日頃から周囲に説いている。

冬季五輪の開催地にもなった1等県であることからしても、長野がいろいろな面で群を抜いているのは当然だ。確かに、秋田県でも昨年夏にワールドゲームズが開催されているが、といってそれを機に本県が大きく飛躍したわけではなく、補助金や融資一つ取っても依然、「担当部署だからこなしている」という官僚姿勢は今も大差はない。わざわざ県北部から融資相談に出向いてきた県民に対し、仮にその時はいいアイデアがなくても、後日、「いろいろあたってみた結果、適合しそうな制度がありましたよ」といった親身に県民のことを慮る誠意と熱意がほしい。

比内地鶏を販売して秋田県内で有数の歴史を誇るある経営者。「不況のあおりを受け、店舗経営は決して楽ではない。できることなら県の補助を得て新規事業を展開したい。しかし、秋田県の補助は県民に出すための補助ではなく出さないための補助だ。申請するだけ時間の無駄」といい放った。本県の補助制度が多くの事業者にそう思われているとしたら大変なことで、まさにそれは補助金の形骸化である。補助金を得るための過度なまでの書類提出、選考委員らの面前でのプレゼンテーション…。それを考えただけで尻込みをしてしまう事業者も少なくない。先進地、長野のように事務処理を簡便にし、より多くの県民に補助できるよう制度体制の抜本的な見直しをする時期にきているのではないか。

「基金を取り崩してもいいから、雇用創出、経済再生、事業推進に向けてどんどん補助金を出そう」というのが寺田知事の考え。が、事務レベルからは「県民のことを心底考えている」との姿勢は、惜しいかな感じられない。そしてまた、本庁に一歩脚を踏み入れると、そこには躍動感はない。その雰囲気は隣りの青森、岩手県庁とは雲泥の差がある。廊下を歩くと、さながら「絶対安静」の札がかけられている病室がずらりと並んだ古い総合病院のような覇気のなさ。「こんなムードでは、補助金や融資を期待すること自体、無理な相談なのだろうな」と思ったのはAさんだけではなく、同じ目的や希望をもって来庁した多くの県民、事業者が落胆とともに痛感したことであろう。県行政の一躍を担う県職員には、もっと活気のある県庁にしなさい、といいたい。そして、県民あっての自分たちであることをもっと自覚せよ、といいたい。この"叱責"を「無視するべぇ」と一蹴するか、「まだまだ県民を大切にする心が足りなかった」と反省するかは、県職員1人ひとりの資質にかかっている。