デスクの独り言
                           
第19回・13年8月29日

完全失業率5%

日本の完全失業率が、ついに過去最悪の5%を記録した。7月現在の就業者数6,452万人。完全失業者数330万人。失業率の低い日本はこれまで世界的にも「優等生」の評価を得てきたが、ここにきて米国の失業率4.5%をも上回るというのだから、まさに右を見ても左を見ても失業者だらけの危機的事態といわざるを得ない。失業者が街にごろごろ溢れている米国の状況に対し、これまで「対岸の火事」とたかをくくっていた日本人も、事態が「病める巨像」以上に深刻になってみると、とてつもない閉塞感で窒息しそうになる。

昨夜、ある男性がニュースで紹介されていた。IT関連企業をリストラされた50代の男性。この年代になると、よほどの特殊技能でも持たない限り、再就職の道は閉ざされてしまう。「ハローワークを通じていくつも企業を受けたが、ことごとく不採用。それほど歳月を経ずに乗り越えられるとわかっているなら、耐え忍ぶこともできよう。しかし、2年、3年と今(失業)の状態が続けば、その先にはとてつもない地獄が待っている」と話し、肩を落としていた。全国の失業者の大半が同じ思いのはずである。

失業者の増大はデフレに一層拍車をかける。極力生活を切り詰めなくてはならないので、誰もが必要最低限の物しか購入しなくなる。結果、物が売れないので企業倒産が加速し、失業者はとどまるところを知らず飛躍的に増える。多くの国民が「カネもない、職もない」というきわめて深刻な精神状態にさらされる。そうなった場合、懸念されるのが強盗、殺人などの凶悪事件の多発。つまり、今日本が置かれている事態は経済だけではない、治安の悪化も含めて日本そのものが暗黒時代に突入する恐怖に相対していることを意味する。職もカネもないので、手っ取り早く刃物や拳銃を使って強盗をするという光景が日常茶飯事なのは、あの米国だけではなく日本もそうなる危険性を多分に秘めているということである。

小泉首相はきのう、記者らのインタビューに答え、「そろそろ本格的に取り組まなくてならないと思っている」という意味合いのコメントを出していた。疑問と憤りが鎌首をもたげた。「最悪の完全失業率に達したというのに、そろそろ、だ!?」。首相としての資質の欠落は、こうなると「神の国発言」や「えひめ丸」で大失態をしでかした森前首相どころではない。「そろそろ」ということは、「今まで何をしていたのだ」ということになる。首相として経済再生、雇用促進のためにいろいろな策を就任以来講じてきた努力は認める。しかし、まったく成果があがっておらず、挙句の果て、完全失業率過去最悪の5%。

携帯電話ホルダーやポスターなど「純ちゃんグッズ」が飛ぶように売れているという。あろうことかあるまいことか、危機的状況の今、現職首相の写真集まで出た。前代未聞。小泉氏いわく、「この写真集で私のすべてを知ってもらえる」。ここまでくると、ノー天気どころの話ではない。今に至っても「小泉さんを批判する人は許さない」などといって、盲目的に支持する人たち。そのような人々を責める気はないが、「小泉さんなら、例の靖国神社参拝問題を含めたこれまでの失点を、必ず挽回してくれるとまだ信じているのですか?」「もし、あなたやあなたのご主人が、小泉氏の構造改革のあおりを受けて会社をリストラされても、まだファンでいられるのですか?」と、訊いてみたい。

世界的なIT不況を背景に、東芝、富士通をはじめ電器大手各社が次々と大規模な人員削減に踏み切っている。構造不況業種に限らず、今後あらゆる分野での人員削減が懸念され、来月総務省が発表する8月の「労働力調査」ではさらに完全失業率が高まるのではないかと予想される。小泉氏が掲げる「構造改革」で、近い将来数十万人の中小企業労働者の首が飛ぶといわれる中にあっては、「国民の痛みを伴う改革」は「痛み」どころではない、「重傷を伴う」に置き換えられても不思議はない。

厚生労働省は、中高年の失業者の採用に乗り出す企業に対して奨励金を特別支給する緊急雇用対策の対象地域を、きょうから全国に拡大した。確かに焼け石に水ではあるが、こうした施策をさまざまな角度から展開していく必要性は今後ますます高まる。そして政府が目指す530万人の雇用創出目標に対しては、各方面からその非現実性が指摘されている。日本人特有の「右習え」で盲目的にITに先走った大手企業経営陣の読みの甘さをはじめ、現在の日本経済、雇用情勢が置かれている実態をすべて、「小泉さん、あなたの構造改革論が諸悪の根源だ」と一言で決めつけていいわけはない。正念場を迎えている今、官民、そして国民の1人1人がこの難局を乗り切るために自分のできることを最大限努力することこそ国民の義務であり、打開への糸口につながるのではないか。

ところで、気になる点が1つ。全国の完全失業者330万人の34.5%、つまり3人に1人以上が自発的に職場を辞めている。業績悪化で企業が退職者を募り、それに応ずるというケースは理解できるとして、超就職難にもかかわらず自ら辞めていくサラリーマンは多い。私の知り合いにも「長く勤めたけど、あの会社にいるのはもう限界。見切りをつけた」といいながら、今月いっぱいで辞める人が3人いる。「辞めて何をするのか」と訊ねると、「以前から考えていること(事業)があるのでやってみたい」という。中には、電子商取引を、という人もいた。

結局は、経営才覚と運があれば「食べていけるだけ」の事業を展開していけるのだろうが、こと、電子商取引について指摘させてもらえれば、会社を辞めてインターネットビジネスでもやってみようという人は全国的に急増しているため、これもまた「1年間、1個も売れなかった」という環境下に置かれることは十分覚悟しなくてはならない。インターネットでの物販行為は生半可なものではなく、ある意味では実店舗以上にむずかしいことを取り組む前からきちんと認識しておくべきだ。「失業したのでインターネットで商売でもしてみるか」という安易な考えは、許されぬ世界なのである。