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第132回・令和6年11月26日
 
かなと思います
 

 ここ1、2年ほどで全国に伝染してしまったと思える、何ともちぐはぐな言い回しがある。到底「流行」などと形容し得るものではなく、むしろ「伝染」がふさわしい。日本語として正しい表現なら、このコラムでも取り上げることはないが、さまざまなジャンルの解説者や有識者に属する大学教授はもとより、世界で最も有名なあの日本人大リーガーまでインタビュアーとの短い会話の間に複数回立て続けに使用したのにはさすがに「〇〇、お前もか」と口ごもってしまった。

 「かなと思います」。今回取り上げたいのは、この表現。何かにつけて「かな」を好んで使いたがる"かなかな蝉"は以前から全国に無数にいたのだが、推定1、2年ほど前からは「と思います」を続ける言い回しが全国的に伝染している。「そういえば、自分も折に触れて使っている」と思い当たる人も少なくないのではないか。

 伝染の原因はテレビを代表とする視聴覚媒体ではないか、と筆者は"分析"している。とりわけ、全国レベルのスポーツ大会やニュース番組の解説者、ゲストなどを中心に頻出し、的確な日本語を使うべく教育されたはずのアナウンサーの口からもこぼれ落ちたのには、さすがに驚きを禁じ得なかった。

 「かな」は、自分の思案の中で白なのか黒なのか判然としない、つまり疑問に近い表現であろう。これに「と思います」を続けて「かなと思います」となると、「自分は何もわかりません」に匹敵する意味合いになると考えるが、この言い回しを使う人々はおおかた何の抵抗もなく使用している。むしろ、意図して使っているのではなく、テレビなどの影響で無意識的に体に染み込んでしまったのではないか、と推察される。

 例えば、あるオリンピアンが言ったインタビュアーに対する回答の一部。「僕は今回のオリンピックで金を獲りに行きたいかなと思います」。金を獲りに行きたいのか、行きたくないのか、どっちなんだ、と突っ込みたくなる。「金を獲りに行きたいと思います」と言えと。

 また、交通死亡事故が発生したある現場。最寄り警察署の管理職がテレビカメラの前で答えた「危険な交差点なので、気をつけていただきたいかなと思います」などなど、例を挙げたらキリがない。

 「かなと思います」は「どうみても日本語として不自然でしょう」と筆者は主張したいのだが、ひとりよがりでは仕方がない。そこで、AI(人工知能)にたずねてみた。案の定、次のような回答を得たので以下に赤文字で列挙してみる。

 「かな」と「と思います」の組み合わせが不自然に感じる理由として、以下のような点が考えられます。

 二重否定に近いニュアンス: 「かな」が「わからない」というニュアンスを含み、「と思います」も確信を伴わない表現であるため、二重否定に近い印象を与え、かえって意味が不明確になることがあります。

 丁寧さのバランス: 「と思います」は比較的丁寧な表現ですが、「かな」はカジュアルな印象を与えるため、両者を組み合わせると丁寧さのバランスが崩れ、不自然に感じる場合があります。

 文脈とのミスマッチ: 状況によっては、「かなと思います」という表現が、話し手の自信のなさや、相手に委ねる姿勢を過度に強調し、かえって失礼に受け取られる可能性もあります。

 「さっぱりわかりません」という表現との比較

 「さっぱりわかりません」は、明確に「わからない」ことを伝えており、より直接的で簡潔な表現です。一方、「かなと思います」は、そのニュアンスが曖昧で、相手によっては誤解を招く可能性があります。

 いかがだろうか。筆者が考えるとおり、AIもまた「かなと思います」が不自然な表現であることを指摘している。

 また、AIは2つの例文を挙げた。

 @「明日は雨が降るかなと思います」(明日は雨が降ると思います、の方が自然)

 A「あの映画、面白そうかなと思います」(確信が持てないことを示す)

 とりわけAについては、確信があったとしてもあえて「かなと思います」と、巷では表現する者が少なくない。

 確かに、「かなと思います」に限らず、「その日本語どうみても変だろう」と思える言い回しは、ほかにもたくさんある。それらをいちいちあげつらっても仕方がないのだが、ただ、「かなと思います」はここまで伝染してしまうとさすがに見るに見かねて、「たとえ何の影響力がなくても誰かが言葉や活字で指摘しなくては」との思いで今回取り上げた次第である。無論、上から目線などではなく、同じ日本人として「もっとましな日本語を使おうよ」と申し上げたい。

 だが、頻繁に使っている人はこう切り返すかも知れない。「正しかろうが間違いだろうが、好きで使ってんだから、お前にとやかく言われる筋合いはないよ。てゆうか、空気読めよ」と。それはそれで、「じゃあ、ご自由に」と返すしかない。不自然な表現であれ、日本人の大半が使い続ければ、やがてそれは「正しい日本語」として認知されるのだろうから。

 このコラムの終いに、AIが掲げた「まとめ」を紹介してみたい。

 「かなと思います」という表現は、状況によっては不自然に聞こえる可能性があるため、注意が必要です。より適切な表現を選ぶことで、相手に正確に自分の考えを伝え、円滑なミュニケーションを図ることができます。