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第130回・令和5年2月24日
 
春の本部展

  
 長年にわたり地域文化のひとつとして大館市に根づいてきた秋田犬の春季本部展覧会が、今春は県南の大仙市で開かれる。情報が錯綜し、主催団体の公益社団法人秋田犬保存会(本部大館市)の国内会員らの間で誤解を招いている向きもあるため、県南に変更された経緯に言及してみたい。

 今回の件を簡単に紹介すると、大館市三ノ丸地内にある秋田犬保存会の改修費助成を秋田犬保存会が市に誓願したのに対し、市議会は複数回継続審査した後、昨年6月議会で全会一致で不採択とした。不快感を示した同保存会の会長をはじめとする上層部が、春の本部展の開催地変更を決めた。これは、市や市議会に対する鬱憤晴らしと解釈されても仕方のない決定といえる。

 県内の秋田犬保存会支部は、本部おひざ元の県北、県中心部の秋田中央、そして県南の3支部が存在する。今回で第147回を数える本部展のうち春季は、これまで定番としてきた大館市役所裏手に位置する桂城公園から大仙市の大曲市民会館第2駐車場に変更する。5月3日の開催日は、従来と変わらない。

 大館市を会場としないなら県の中心部である秋田市、つまり秋田中央支部主管で開催されるのが筋なようにも思える。が、意外にも支部展ですら「最も盛り上がらない」県南に決まった。

 なぜ県南なのか。この点について報道機関は関心がないらしく取り上げておらず、県内はもとより全国の会員間ではある噂がまことしやかに飛び交っている。「県南支部長が『自分が生きている間に一度でいいから県南で開催したい』と会長に強く働きかけた」と。

 しかし、地元県南支部の事務局や県内の会員、本部理事などの話を総合すると、事実は逆のようだ。つまり、県南支部長が会長に働きかけたのではなく、本部上層部の者が県南支部長に対して「県南を開催地とできないか」と打診し、熟慮の結果、今回に限り引き受けることにした、とのこと。

 なぜ県南支部に打診したのかは定かではないが、2018年平昌冬季五輪フィギュアスケート金メダリスト、アリーナ・ザギトワさんに秋田犬保存会が赤毛のメスを寄贈した経緯があり、「マサル」と名づけられたその犬は県南支部長の犬舎で産まれた。その辺りに保存会長と県南支部長との"接点"があった、とも推察できる。

 「現会長なら秋田県外に開催地を移すことも、胸先三寸であり得る。何としても県内開催を死守する必要があるため、重荷ながらも県南開催を引き受けた」と県南支部事務局関係者は話す。

 確かに、春の本部展開催地が定番の大館市を離れてしまうなら、全国のどこを会場にしてもさしたる問題ではなくなる。会長がいる大阪府を今後、永続会場にしても何ら不思議ではない。

 国会議員かつ所属党の重要ポストに就いている現会長なら、鶴の一声で大阪を会場にすることなどたやすいはずだ。それを何としても回避したいとの願いもあって、県南支部は今回の県南開催を引き受けたとも取れる。

 今後重要になってくるのは、会場を従来の桂城公園に取り戻すために「どうする大館」である。うっすらと予想できるのは、手の裏を返したように市議会が秋田犬会館改修費助成の決定を下すシナリオ。

 しかし、取って付けたような手の裏返しは「議員の皆さん、あなたたちはさんざん議論した挙句、秋田犬会館改修に助成しないと決めたのでしょう。あの議論は何だったのですか」となる。

 とはいえ、「秋田犬の殿堂たる秋田犬会館が老朽化しているのに、なぜ市は手を差し伸べないのか」との不満が市民の間でくすぶっているのも事実だ。

 ならば、代替案として国や県が支援してくれるよう市が働きかけてやるしかあるまい。金額の規模にかかわらず市議会は「秋田犬会館改修には助成しない」との結論を出したのだから、保存会との関係を修復するためにも一肌脱ぐのは当然ではないか。

 関東在住のある本部理事は言った。「大館市が春の本部展会場でなくなることに対し、全国の会員から不満の声が相次いでいる」と。

 昭和初期から絶やさず続けてきた大館での春季本部展は、単なる秋田犬イベントではない。まさに大館の文化と歴史そのもので、いかに大切なものを今回の"騒動"で失ったか、市民の負託を受けている市長や市議はもっと真摯に受けとめるべきではないのか。今年が忠犬ハチ公生誕100年の年なら、なおのことである。