BANNER1903J.BMP - 134,574BYTES
トップ
お悔やみ
以前の記事
政治
経済
社会
選挙
コラム

デスクの独り言

第128回・令和3年8月30日
 
愚の極み

  
 開いた口が塞がらぬ、とはこのことである。新型コロナワクチン接種者を
優遇する企画で消費喚起しよう、との意見が27日の大館商工会議所定例常議員会で報告されたというのだ。未接種者差別を誘発しかねない、前代未聞の陳腐な発想。大館市がもしこれを許容するとしたら、同市の歴史に禍根を残すことになろう。

 大館市の人口に占める2回接種率は、26日現在で78.3%。全国平均の「必要回数のワクチン接種完了者割合」が同現在で43.8%にとどまることからすれば、同市は著しく高い。とはいえ、「基礎疾患のため接種できない」または「コロナワクチンそのものに強い不信感をいだいている」などを理由に、5人に1人以上が未だ接種していない計算だ。

 こうした中、大館商工会議所は定例常議員会を27日に開き、各部会からの市長への要望案を報告。地元紙によると、このうち理財部会からはワクチン接種完了者に「ワクチンパスポート」を発行して消費喚起を、との意見が出されたという。また、青年部からは接種済証による割引や特典付与などのサービスを望む声が会員から相次いだ、との報告がなされた。

 コロナ影響を直接、間接的に受けている企業は多く、大館市内も例外ではなかろう。倒産や廃業、閉店の憂き目にあう事例も全国で続出している。それでも、感染が終息する日が来るのを祈りつつ、みんな歯を食いしばって耐えている。

 諸外国には、ワクチン接種を完了した消費者などを優遇する動きは確かにある。だが、国の区別なく接種はあくまで希望者に対するもので、厚生労働省も「未接種者への差別や偏見はしないように」と呼びかける中、よりにもよって大館市の経済中枢の一翼を担う大館商工会議所の会員らの中で未接種者差別を誘発するであろう企画が平然と出されたこと自体、驚愕以外の何ものでもない。

  なぜ大館でそのような発想がなされるのか、筆者なりに分析してみたい。筆者もまた生粋の「大館人」であるため、長年の記者活動はもとよりプライベートな人間関係においても、大館"土着"の市民の気質は嫌というほど肌で感じてきた。

 まず、なぜ大館市では全国平均の2倍近い接種率に至ったのか。これは「大館気質」に起因すると考える。ワクチン接種後の死亡事例は、全国計で近い将来1,000件を超えるだろう。また、さる6月には国内の医師390人と地方議員60人が連名で「治験が終わっていない」などの理由で接種の中止を求める嘆願書を厚労省に提出したのに対し、その事実を報道したメディアは皆無に等しかった。さらに、数日前には異物混入ワクチンの存在も発覚した。

 これに加え、ネット上ではワクチン接種に関してさまざまな憶測が飛び交っている。これら一連の動きに対し、比較的若い世代が敏感に反応して接種をためらっているのが、全国平均の接種率が40%台にとどまっている主たる背景にあると推察される。

 一方、大館市の場合、全国平均以上に潤沢に市がワクチンを確保できたこともあろうが、それ以上に、市民は家族、友人、知人が接種すればワクチンの危険性を疑うことなく「右習え」で接種する、いわば連綿と続いてきた「土着の気質」が厳然と存在する。実際に、いろいろな市民に話を聴いてみても、「家族に言われるまま接種した」「みんな接種してるし」などがほとんどで、ワクチンに対する懐疑心など微塵も感じられない。

 また、「やねやづ、バガこだ」(接種しない奴は馬鹿だ)との声も聴かれた。じつは、この言い回しこそが「大館気質」そのものである、と筆者は断ずる。つまり、未接種者がなぜ接種しないのかを思いやることもなく、直情的に侮蔑する。筆者はこれまでの記者生活、換言すれば人生の中で、温情なく人を侮蔑する「大館人」を数多く目の当たりにしてきた。

 こうした気質が、大館商工会議所内で接種完了者優遇の企画を提案する会員らの"本音"として見え隠れする。つまり、「さねやづのごどは、あど知らね。どうせ、してぐねくてさね、バガこだべしゃ」(接種しない奴のことは、もう知らない。どうせ、したくなくて接種しない馬鹿だろう)程度にしか思っていないがゆえに、平気で"接種者優遇企画"が飛び交うのである。

 コロナ影響を受けている業者はみんな苦しい。それは十分に理解できる。だが、結果的に未接種者を差別してしまう企画を決行すれば、それは全国に飛び火しかねない。この点、「言い出しっぺ」たちは軽く考えているのであろうが、差別はやがて迫害につながる。迫害が横行すれば、未接種者の居場所は職場にも地域にも、そして最後の砦たる家庭にもなくなる。大館商工会議所で出された"接種者優遇企画"はそれほど重大な危険性をはらんでおり、大館市が発端と全国に報じられれば市の歴史に間違いなく禍根を残す。

 同会議所の齋藤研太事務局長は「差別を受けないように精査が必要」との見解を示した。が、それは違う。「精査」するまでもない話だ。いかなる形であれ、愚の極みともいえる企画は断じてやるべきではなく、「ない頭を絞って」でも広く市民に喜ばれる消費喚起策を考えるのが大館商工会議所の果たすべき役割ではないのか。未接種者にも接種者と同じ消費権利があることを、忘れてはならない。

 実のところ、ワクチンを接種した方が正解なのか、誤っているのか、今の時点では接種者、未接種者の誰にも判らない。あるのは、期待と希望的観測にすぎない。 だからこそ、たとえ「地域経済活性化」の大義名分があろうとも、未接種者の差別につながることは、決してすべきではないのである。