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第127回・令和2年8月6日
 
薄氷を踏む思い

  
 新型コロナウイルスに絡む県内の現状について、今月4日の記者会見で佐竹敬久知事は「薄氷を踏む思い」と形容した。県内の感染者数は全国でも低水準(8月6日現在18人)に抑えられているが、いつどうなるか分からない、きわめて危険な状況にあることを憂慮し、知事はそう表現した。その上で、帰省シーズンが目前に迫っていることを危惧し、首都圏を中心とする県出身者や郷土の家族に対して帰省の自粛や説得を求めた。

 国内では、感染拡大が日々深刻の度を増している。最大の責任と失敗は国にある、と筆者は断ずる。「専門家」らの意見を鵜呑みにし、感染拡大が少し緩んだと早合点した国は早々に非常事態宣言を解いた。

 それを機に、経済活動が再開。大相撲やプロ野球に代表される中央、そして各地のスポーツ大会なども屋外を中心に一部で始まった。それら一連の動きは、宣言解除によって感染拡大前の状況に少なからず逆戻りしたことを意味する。四苦八苦の日本経済を一刻も早く立て直そうと、国は同宣言をフライング解除したのである。

 そして、極め付けが先月22日に始まったGoToキャンペーン。ホテル、旅館などに代表される観光業界はコロナ感染の影響で虫の息だった。事実上の開店休業状態が長引けば長引くほど、倒産など壊滅的な打撃を受ける。ゆえに、国は業界救済策の一環として同キャンペーンをスタートさせた。

 キャンペーン利用者の考え方は、2通りに分かれよう。「国が旅行代金を最大35%補助してくれるの? ラッキー」という単に能天気な旅行者と、「青息吐息の旅館、ホテルなどの役に少しでも立ちたい」という考えの旅行者。少なくとも後者は、感染リスクの高さを前者以上に理解した上での利用といえるかも知れない。

 当のホテル、旅館、土産店、飲食店などは感染予防に向けて万全の体制で観光客を迎えると強調するが、実際はいかに危険かを彼ら自身が最も理解しているのではないか。いわば「毒を食らわば皿まで」状態で、感染した旅行者が唐突に眼前に現れても不思議ではなく、感謝はすれども感染の恐怖におののきながら日々の業務に当たっていると察せられる。いわば国は、GoToキャンペーンが感染拡大の引き金になり得ると予測した上で、あえてスタートさせたと思われても仕方がない。

 GoToキャンペーンと横一線で、実は最もリスキーなのが目前に迫る盆の帰省シーズンだ。両親など故郷の家族をいかに危険にさらすかを明確に理解している県出身者は、帰省を取りやめるだろう。問題は、感染のリスクなど意に介さない、いわば「聞く耳持たぬ」人たちである。彼らは、例年同様、普通に帰省する。

 例年の帰省者数を10とすれば、あえて今年帰省しようとする者は2程度なのかも知れない。それでも東京をはじめとする感染が深刻な地帯から全国にキャリア(保菌者)が散らばれば、膨大な拡散数にのぼる。帰省の際に彼らは、古里の家族に対して新型コロナウイルスという"置き土産"を残し、両親はもとよりその周囲に多大な迷惑をかけかねない。

 また、"田舎"では近所に瞬く間に噂が広がる。もし無神経に帰省するなら、こうした陰口が近所中に広がるかも知れない。「東京に住む隣の息子が、家族を引き連れて帰って来たって!? たまげたもんだ、コロナをうつすつもりか?! 親も親だ、今年は帰って来るなといえなかったのか」と。

 そうなれば、親が住む家は今後近所とのつきあいに災いが生じかねず、帰省によって家族が感染しようものなら、"村八分"同様にされる危険性すらある。仮定の話に聞こえるかも知れぬが、今年の帰省はそれほど甚大なリスクを孕(はら)んでいる。

 問題は、全国の知事らにもある。帰省を自粛してほしい、と呼びかける佐竹知事のような姿勢は珍しい方だろう。むしろ、感染しないよう注意すれば帰省は可能、とする考えの知事が少なくないのに驚かされる。それによって、「緩(ゆる)〜い人たち」は「マスクを着用すれば普通に帰っていいんだ」と、身勝手な解釈をしてしまう。それは疑いようのない事実だ。

 この問題について6日、北秋田市の津谷永光市長と対面し、市長の立場から見解を求めた。「確かに、知事の間でも考え方にズレがあるようだ。また、国の姿勢も、帰省自粛を求めているのか、注意する程度のことを求めているのか、よく判らないところがある。お盆の季節、本来なら市内の経済も帰省によっていくぶん潤うところだが、今年に限っていえば、ぜひ帰省を自粛してほしい」と、市長は切望した。これは、佐竹知事とほぼ同様の見解といえよう。

 PCR検査を受ける人が急増しているゆえに感染者数も多くなっている、とテレビの中でまくし立てている医師がいた。ことさら、検査が効果を上げている、といわんばかりに。だが、それは偏った分析だ。日本は今、感染拡大がとどまるところを知らない、きわめて深刻な状況に陥っている。それこそがまさに、現実なのである。被検者が多い、少ないの問題ではない。

 危険性への意識が乏しい人らは、間違いなく盆帰省する。それは、彼らが再び東京などに戻った後、日本全土がパンデミック、爆発的流行に陥るリスクが格段に高まることを意味する。

 ふだんからメールでやり取りをしている岡山県在住の看護師に先日、無自覚な人らの帰省によって日本は大混乱に陥る危険性がある、と伝えてみた。「そんなアホな」と思ったらしく、何ひとつ関心を示さなかった。

 それから2日ほどして、看護師からメールが届いた。趣旨はこうである。用事で鳥取県に出向き、立ち寄った中華料理店で昼食を摂ったところ、そこにたまたま感染者が居合わせたことが判り、自分も鳥取県内のホテルに自主隔離中とのこと。「37.5度の熱がある。一刻も早くPCR検査を受けたい!!」と、彼女は訴えた。コロナ感染の危険性を一般人の比ではないほど認識しているはずのナースですら、この有様だ。

 日本は今や、どこにいても感染しかねない、それこそ佐竹知事が形容した「薄氷を踏む思い」の現実であろう。だが、危機感を持たぬ「緩〜い人たち」はほぼ普通に暮らし、他都道府県に出かけ、挙句の果てに感染し、無自覚にウイルスをばらまく。そして、彼らは異口同音にいうだろう。「どうしようと、勝手だろ」。そんな常套句を吐き捨てる者が、日本には少なくない。

 ワクチンが救世主であることに、疑いの余地はない。しかし、それが日本国内、かつ世界中に行き渡るにはかなりの期間を要する。それまで、人類は何としても持ち堪(こた)えなくてはならない。そうした中で日本国内の最大かつ喫緊の課題は、帰省をどう食い止めるか。すべては、そこにかかっている。

 「今年だけは、絶対に帰省しないで」と全国の郷土出身者に、声を大にして訴えたい。自身、家族、そして国民の生命を護るために。 今まさに、日本人の良識が問われている。