デスクの独り言
                           
第13回・13年7月22日

小泉論、政治家論

面白い4コマ漫画を眼にした。小泉首相がテレビで何やら演説をしている。それを見ていた課長が「改革で景気がよくなるのか−っ」と怒っている。隣りにいる部下が「会社にも熱狂的な小泉ファンがいます」と、課長の袖を引っ張っている。鼻息荒く後方で課長を睨んでいる古株らしき女子社員。その女子社員が「小泉さんの悪口はぜったいゆるせない」と息巻きながら、机上のゴミを指でかき集めている。「結」の4コマ目で、課長はコーヒーを満足げにすすっているのだが、当の女子社員は同僚に「入れてやったわ」といいながら、ほくそえんでいる。小泉さんの悪口をいおうものなら、ゴミ入りコーヒーを飲まされるのは序の口で、何をされるかわからぬ時代だということの風刺。

具体的なシナリオを示さない構造改革路線をはじめいくつかの観点から、私も小泉氏を評価できずにいる。が、異常なほどの人気からして4コマ漫画のようなことが社会風潮となっていることも認識しているので、小泉批判論を綴ることはこれまでためらわれた。しかし、不良債権問題、コメの自由化、医療費、公共事業の見直しをはじめとする、国民の「痛み」を伴う「聖域なき構造改革」が将来的に「痛み」という表現以上に首を絞めつけるであろうことを、自称小泉ファンの国民も徐々に認識し出してきているように思える。そしてまた、東証株価も小泉人気失速の大きな懸念材料になってきた。綻びが出始めると、これ幸いにとばかりに野党の小泉攻撃も、選挙時ということもあってなりふりかまわない。

先日、ある人物と酒を酌み交わしたら小泉氏の話となり、「世の中を変えられるのは彼しかいない!!」と、相手が一石ぶった。そこで私が、22も年上のその人に恐る恐る質す。「小泉氏の政治思想、人物像、そして野党とどのように対峙しているのかなど、多くを咀嚼した上でそこまで彼を評価しているのですね?」と。今の若者たちの多くがただトレンディーというだけで金髪、茶髪になっているのと何ら変わらず、単に小泉氏が歴代の総理の中で一番カッコいいだのダンディーだの、の価値基準で小泉氏を評価しているきらいはなきにしもあらずで、それが支持率を押し上げているとしたら、「コレハモウタイヘンダ」どころの話ではない。相手も議論を進めていくうちに、メディアから得た上っ面の知識だけをよりどころに過大評価していることを露呈せざるを得なかったのだが、基本的には圧倒的多くがマスコミ報道からしか情報を得られないわけだから、それはそれで致し方のないことかも知れない。

小泉氏は確かに頭が切れる。例えばメルマガ。読者はゆうに100万人を超えるという。小泉氏のメルマガの読者になることが、IT社会のトレンディーにすらなっている。総理である今、メルマガを発行することによって選挙運動をしているのと同様の、またはそれ以上の効果が得られる。総理になる前、あるいは退いてからでは爆発的な読者増など望めはしない。「日本を良くしようとがんばっている私を理解してもらうためにITを活用しているだけだよ」と小泉氏はいうだろうが、参院選を含めてすべてを計算に入れた上で絶妙のタイミングでメルマガを創刊したことは容易に察しがつく。当然、他党の党首がやっても二番煎じでしかなくなる。まさに小泉氏ならではのアグレッシブな着想だ。

私がなぜ小泉氏を評価できないか。「どこにあなたの責任の所在があるのだ?」と指摘したくなるような構造改革路線もさることながら、彼から伝わってくる「相」が与える影響は少なくとも私にとっては大きい。顔のつくりではなく、外見が伝える深部のようなもの。彼の眼の奥から伝わる野心家特有の光。成就させんがためならいかなることにも手を染めるという冷酷な光が彼の眼からは見え隠れし、「信用できない」という思いが以前からあり、未だにそれを払拭できずにいる。「根拠のないあなたの主観でしょう」と熱狂的ファンに切り返されてしまえばそれまでだが、構造改革路線がみすみす国民の首を絞めることが野党でなくともわかりきっているものだから、よけい彼から伝わってくる相が「さもありなん」という気にさせるのである。歴史に残るすばらしい宰相なのか、それとも国民の期待をあっさりと裏切る総理でしかないのか、それほど遠くない将来、決定的帰結が待っていることだろう。

ところで、日本に真の政治家はどれほどいるのだろうか。大半が口八丁手八丁だけの「政治屋」にすぎぬことは国民の多くが知っている。それを最も反映しているのが国政選挙の投票率の低さである。国民の間には「誰がなったって同じだよ」という意識が潜在的に浸透している。1年半ほど前、知り合いからこんな話を聞いた。2度ばかり大臣職についたある代議士。何かの総会の来賓に招かれたその代議士は、隣席に坐る後援会副会長に「次は君が後援会長だよ、わかってるね」と、鷹揚に耳元でささやいた。2代目社長である後援会副会長は「不況で事業が厳しい昨今ですので、会長のお話はひらにご容赦を」と辞退したところ、「オレの顔を潰す気か、お前の会社などその気になればひねり潰せるんだぞ」と激怒。福会長は帰宅してから、なぜそこまで責められなくてはならないのか、と男泣きをしたという。福会長から知人が直接聞いた話だというから確かだろう。いずれにせよ、口では「日本のため、郷土のため」と大嘘をつきながらその実、名誉欲の塊でしかない「政治屋」は多い。

29日は参院選投票日。小泉氏にも当然のことながら国民の審判が下るわけだが、国民の付託を受ける人物を選ぶ有権者の責任は、立候補者以上に大きいのはいうまでもない。巧みな話法や白い手袋に惑わされない眼で「政治家」を選びたいものである。