デスクの独り言

第118回・2017年7月27日

信用失墜

 1度でも県民の信頼を損ねた知事、そして県職員はその場に居座るべきではない。佐竹敬久知事はみずから職を辞し、水澤聡産業労働部長と草g作博観光文化スポーツ部長も辞表を提出すべきである。現職にしがみついたところで、これから先、県民の信頼を回復できるはずなどなく、取り返しのつかぬ嘘をついた知事や知事部局最高管理職らがこれから、どの面下げて県民と相対することができるのか。まして、2人の部長は同僚、部下たちの信用も失い、今後、県政運営に悪影響を及ぼすのは必至だ。

 県民生活は無論、生死にすらかかわる記録的大雨の中、県庁OB4人とともに彼らは、宮城県加美町内でのゴルフを経て、宿泊施設で飲酒をしていた。今月22日のことである。午後6時40分ごろになって知事が大雨情報の詳細を携行タブレット端末で確認するまで、酒席では災害に関する話など一切出ず、県内の状況を気にかけることもなく酒に浸っていた。たとえOBとはいえ、県の元危機管理監も同席していたにもかかわらず、である。河川の氾濫や避難勧告が県内で続出する中、知事や現職の部長らは「ま、たいしたごどねべ」(まあ、たいしたことはなかろう)ぐらいの気持ちで談笑していた、と推察される。危機管理意識の完全欠落。

 翌朝、滞在先の宮城から県庁へ向かうも交通渋滞に阻まれ、県庁内で午前11時から開かれた大雨被害に関する会議に、彼らは間に合わなかった。知事は当初、記者会見で「昔の仲間3人」とゴルフに出かけたと説明。一転、26日になって「それは嘘だった」とした上で、水澤、草g両部長、そして県のOBら4人のあわせて7人だったことを明かした。虚偽説明をしたことに対して知事は、「部下をかばった」などと釈明した。

 「かばった」などと申し開きをすれば、いかにも職員思いに聞こえるが、そうではあるまい。災害の最中、現役の部長複数が同席していたことが知れれば、県民の失望の度合いと信用の失墜はより大きい。部下をかばうがゆえに事実を隠蔽しようとしたのではなく、2人の部長がいた事実そのものを闇に葬りたかったのではないのか。知事の腹の中は誰にも分からぬが、そう思われても仕方がない。

 事態が刻一刻と深刻の度を増す中、「われ関せず」とばかりに酒をあおり、みずからがトップである災害連絡会議に欠席したばかりか、県の部長が2人も同行していた事実を隠していた、いわば「嘘」はすでに知事の位置にとどまるに値しない。

 部長のいずれかが「このままでは隠し通せない」と進言したのか、あるいはその事実を新聞記者がつかみ、知事に詰め寄ったのか。大方、政治家は隠し通せるものはどこまでも隠し、「もはやこれまで」と観念せざるを得なくなった段になって、記者会見で謝罪とともに事実を明るみにするのが常套手段だ。知事もそうした経緯を経て、「嘘」を"公開"せざるを得なかったと推察される。真に自分から恥を明かすつもりなら、「嘘」のオブラートでくるむことなく、最初に事実を公表していたはずだ。

 嘘を含む知事の一連の"行動"はすでに県民の信頼を大きく損ねており、みずから言うように「一生懸命がんばっているし、実績を積んでいる」としても、事の重大性は計り知れない。つまり、これから先、全身全霊で県政発展に邁進しても、県民が1度貼った「嘘つき知事」のレッテルは、もう2度剥がれない。かつ、直ちに県庁に向かわなかったこと自体、「傲(おご)り」に慢心していることの表れだ。そうした者に、県民がこれからも県政を託し続けられるだろうか。秋田県の現状は、それを許すほど甘くはない。

 そして、2人の部長。ある意味では、彼らの責任は知事以上に大きい。秋田県庁を切り盛りしているのは知事ではなく、1人ひとりの職員である。彼ら全員の協力なくして、知事など何も成し得ない。国政にたずさわる中央省庁の職員らと同様、県職員らも「秋田県を動かしているのは知事ではなく、自分たち」との自負があるはずだ。そうした彼らの最前線に立つのが、一般職の最高位たる部長である。知事が久保田藩主の流れを汲む佐竹北家の出とはいえ、民主主義の時代に県民によって選ばれた彼に職員らが物言えぬはずなどあるまい。

 酒席の夜も2人の部長らは知事に「秋田に戻りましょう」と言えなかったのではなく、漫然としていた、つまり知事と同様、県民が今どれほどの災害に苦しめられているのか、眼中になかったと結論づけざるを得ない。一部の新聞が書いているように、本当に知事の周囲にはイエスマンしかおらず職員らが保身のために汲々としているなら、それこそ県庁は末期的症状で、深刻な人口減少問題に立ち向かえるはずもない。

 今後の方向性の鍵は、県議会が握っている。だが、さる1月に発覚した石川徹県議の政務活動費不正支出問題では辞職勧告決議案が提出されぬどころか、議会として事実上一切お咎めなしだったことや、先の知事選で現職を応援した県議が多かったことなどからすれば、「知事続投」に落ち着くのは眼に見えている。結果、知事と2部長の処分は「〇〇分の1の減俸」が落としどころになるであろう。いや、それすらなく、3人はしれっとした顔で平然と現職にしがみつくのかも知れない。

 だが、忘れてはなるまい。県民の信用を失った知事や職員が居座り続けることは負の連鎖を生み、秋田はさらに「慣れあい」の度を強め、廃(すた)れていく。結果、若者が秋田を離れていくのを助長する。形ばかりの反省ではなく、県民に対していかに重大な裏切り、背任行為をしたのか、佐竹知事、水澤、草g両部長はしっかりと肝に銘じるべきである。その上で、どう責任を取るのか、明確に示してほしい。