第117回・2017年3月11日 秋田ときりたんぽ きょうは、東日本大震災発生から6年目の日。タイミング的には、大震災をテーマに"一筆啓上"したいところだが、報道各社が総力を挙げて記事や特集、コラム、社説として取り上げているため、そちらに譲るとし、今コラムではすでに「臭い物に蓋をしてしまった」感がある"事件"に触れてみたい。 大手週刊誌の記者、H氏からコメントを求める電話を受けたのは、きのう10日のこと。失礼ながら、「週刊なにがし」といった類いの雑誌を筆者は「三文週刊誌」としてしか評価していない。当事者に直接取材せず、ゴシップをベースに"外堀"からのエセ情報だけで記事を作り上げ、ことさら煽り立てる傾向が強い。ゆえに、書かれた当事者が名誉棄損で訴訟を起こす事例が後を絶たない。 受話器の向こうのH氏に、「あの有名な週刊○○さんですか」と皮肉を用意したのに対し、H氏は「有名かどうかは分かりませんが」といなしてみせ、本題に入った。「例のテレビ朝日の『サヨナラ、きりたんぽ』(4月から放送を予定している深夜ドラマ)問題について、コメントを頂戴したいのですが・・・」。 当新聞社の物販部門は、原種比内鶏や比内地鶏の生体、孵化用有精卵を全国の鶏愛好家に販売している。きたりんぽ鍋に欠かせぬ比内地鶏を取り扱っている業者としての位置づけで、コメントを求めたいらしい。 何カ所に取材したのかを訊ねると、地元きりたんぽ協会の会長や販売業者、大館市役所など10カ所以上を数えるとH氏は明かした。さらに、同会長や業者らはどのようなコメントを出したのかを質すと、きりたんぽのイメージを損ねることへの危惧と、きりたんぽを男性の下腹部に見立てたことへの不快感を示していた、とH氏は答えた。 それを聞いて、いかにも販売業者らしい狭い見方だ、と率直に思い、その旨をH氏に伝えた。真意を測りかねたらしく、H氏が「と、申しますと?」と質す。「あれは、きりたんぽのイメージを損ねるなどといった次元に納まる問題じゃないんですよ」と切り出し、まさに秋田や秋田県民、秋田の食文化そのものへの完膚なきまでの侮辱以外の何ものでもないと筆者が説くと、H氏は「その話、もっと聴かせてください」とさながら膝を乗り出したかの如く興味を示した。 秋田犬や稲庭うどん、大館曲げわっぱ、ハタハタ、竿燈に代表されるまつり、有形・無形民俗文化財、国立公園など秋田をイメージづけるものは数多くある。筆頭に位置するのがきりたんぽである、と確信しているのは果たして筆者だけだろうか。数百年にわたり、秋田の風土と一体となって歴史を刻んできたのがきりたんぽではないのか。ゆえに、今回の『サヨナラ、きりたんぽ』は秋田、秋田県民、秋田の食文化を根底から揺るがすほどの侮辱なのである。 佐竹知事は9日の定例記者会見でこの問題に触れ、「パロディでもあそこまでいくと、度が過ぎる。ましてや、食べ物ではないか。ただ、あまり騒ぎすぎると逆効果になるし、テレビ朝日も(改題を)すっと受け入れてくれたので、それはそれで良いと思う」との認識を示した。きりたんぽに対する知事の見方はその程度のものか、と呆れるばかりだった。 つまり、知事は秋田そのものが最大限侮辱されたことにすら気づかず、「ドラマのタイトルを変えるそうなので、あとは騒ぐな」とみずからを納得させた。抗議文を用意していたにもかかわらず突き付けることなく、電話でのテレ朝側の態度を容認する形で刀を鞘に納めた。 「これ以上、騒いでどうする」と考え、知事は"大人の対応"をしたとの認識なのだろうが、テレ朝がホームページで仮題とはいえタイトルを公表していた時点で、すでに有形無形の被害を受けている。その点に対する知事の考えは、とてつもなく甘い。公文書たる抗議文を突きつけ、県としてきっちりと決着をつけるべきだった。電話でのみケリをつけるとは、県のトップたる「佐竹の殿様」らしくない。本来なら、テレ朝側担当者の責任の所在まで言及しなくてはならないにもかかわらず、それすら一切お構いなしだ。 そもそも、どのような発想をしたら「きりたんぽ=男性の下腹部」となるのか。どのような神経の持ち主の着想なのか。「企画・原作が秋元康とありますが、これは秋元氏が考えたタイトルだと思いますか。それとも、テレ朝側の発想だと考えますか」とH氏に逆質問すると、彼は「両方でしょうね。つまり、双方合意のもとでしょう」と返した。 重要点の1つに触れてみる。「すでに、臭い物に蓋をしてしまった感がありますよ。それでもなお、週刊誌でこの問題を取り上げるなら、よほど強いファクターがないと記事そのものの価値が薄い。そのファクターとは、秋元氏への直接取材です。そのつもりは、あるのですか?」。秋元康氏とえば、かのAKB48などのプロデューサーにとどまらず、日本放送作家協会理事長や2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会理事など、多方面で重責を担うビッグネームだ。 「秋元氏が取材を受けるかどうかは、何とも・・・。しかし、取材の申し込みをしています」とH氏は言った。何としても取材をものにし、どのような"神経"で秋田を最大限侮辱するタイトルを思いついたのか、それを秋元氏の口から語らせることができたなら、少なくとも週刊○○については「三文週刊誌」のレッテルを剥がしたい。恐らく取材には応じず、代替策としてテレ朝への取材にとどまることになろうが。 同週刊誌の次号は、今月16日に発売されるという。かなり"アクの強い"コメントを出したため、実名を掲載しないことを確約してもらったが、コメントそのものが切り捨てられる可能性があるため、記事には何一つ期待はしていない。ただ、『サヨナラ、きりたんぽ』問題はいかに深く秋田を侮辱したものであるかだけは、明確に伝えていただきたい。それだけを、切に願う。 |