デスクの独り言

第111回・2016年1月29日

業者養いの"除雪" 

 雪国の自治体にとって除雪費は毎年膨大な規模にのぼり、豪雪の年などは当初予算で対応しきれず、補正予算を追加せざるを得ぬことも珍しくない。秋田北地方のある市長は、当コラムの筆者に「冬は除雪費で本当に頭が痛い」とこぼしたことがある。それほど、財政に大きな負担を強いる。当然のことながら、できるだけコスト増を抑えるために、県や各市町村は除雪費を適正に消化しなくてはならない。

 そこで今コラムでは、どう客観視しても住民のためではなく除雪(土建)業者を養うために除雪出動させているとしか結論づけざるを得ない大館市の事例を取り上げてみたい。これは、筆者がかなり以前から「不条理」と感じてきたばかりか、複数の人らも同様の見方をしているケースなため、今回問題提起するに至った。もし全市的に行われているとすれば除雪費の多大な無駄遣いで、一部の業者だけだとしても、これを放置している市の責任は大きい。

 今季はクリスマス直前まで暖冬で推移し、年明け以降は幾度か大雪の様相を呈したが、それでも平年に比べると積雪量は格段に少ない。2月目前の現在、ここ2、3日は降雪もほぼ皆無に近い状態で、今後1週間程度は降雪予想ながら「曇り一時雪」という雪かき作業に毎年苦労させられる住民などにとってはいくらかでもありがたい年といえる。

 こうした中、アスファルトが半ばむき出しの状態、つまり積雪量が皆無またはあったとしても著しく少ない状態にもかかわらず、大館市は業者に"除雪"を指示している。まだ夜が明けきらない午前3時から5時ごろにかけ、住民の多くがまだ寝静まる中、轟音をたてて除雪用重機が生活路を疾駆する。

 これがドカ雪の日なら、住民は重機の音がうるさくても我慢できるし、むしろありがたい。しかし、実際には「ぜひ除雪に来てほしい」と願う時ほど除雪車の応援はほとんどなく、高齢者がひしめく住宅街では自力で庭先や自宅前の生活路の雪をスノーダンプやスコップなどで寄せなくてはならない。

 ドカ雪が去り、おおかた雪を寄せ終えた後、つまり来る必要がなくなった数日後に決まって除雪車は、のっそりと姿を現す。当然、「肝心の時に来なくて、なんで今ごろなんだ」との不満の声は多い。

 市当局に問い合わせたことがある。「除雪車が出動する際、どのようなタイミングで出動するかは業者が決めているのか。または、その都度、市が指示しているか」と。「業者が勝手に出動することはない。その都度、指示している」と担当課の職員は、いかにも面倒臭げに受話器の向こうで応えた。

 だとすれば、なおさら問題だ。各エリアの積雪状態など市の担当者はほとんど視認していないがゆえに、路面に雪がない、つまりアスファルトがむき出しでも"出動"させる。1業者が1台の重機を稼働させても、軽く万単位のカネが飛ぶ。それはお役所のカネではない。市当局はただ単に管理しているにすぎず、市民の血税、いわば市民が拠出しているカネなのである。

 市民が切望するときに除雪車は来ず、まったく除雪の必要がない、つまり業者を食わせるためだけの"出動"は毎年1度や2度ではなく、何度も行われる。暖冬推移の今冬はなおさらで、年明け以降"カネの無駄遣いにすぎない出動"をたびたび目にしてきた。ひどい時になると、未明に自宅前で轟音はすれど、ただ重機が通過しただけで何ら除雪をした形跡がない。当然住民は「夜中にたたき起こして、あれはなんだったんだ」となる。

 市当局は反論するだろう。「必要性があって出動させているんだ」と。逆にこう切り返したい。「必要性って? 住民にとっての必要性か? 業者にとっての必要性か?」と。大館市の今冬の除雪路線延長は、市道が前年比109.2キロ増の774キロ、歩道が同0.9キロ増の71.6キロ。それをすべて目で確認した上で業者に指示しろ、などと言うつもりはないし、不可能だ。だが、本当に除雪が必要な状態なのかどうか、また、業者が適切に仕事をしているのかどうかについて、抜き打ちであれ、現場に担当職員が可能な限り多く足を運んでチェックすべきである。もし、「そんなこと、しているよ」と答えるなら、「じゃあなぜ、アスファルトむき出しの路面にカネを巻いているのか」と問い返したい。

 さらに指摘したいのは、なぜ春の足音が近づいてきた2月末または3月の初旬ごろになると、業者総出の除雪作業をさせるのか。寒さは緩み、刻一刻と自然融雪しているにもかかわらず、数日のうちに推定1,000万円以上の経費をかけて雪を総ざらいしているのは春間近に毎年みられる光景だ。

 土砂なら業者が出張って片づけるということもあろう。しかし、相手は何もしなくても日一日と融けていく雪だ。年度内に除雪予算を使い切るためか、はたまた土建業者を食わせるためか、毎年多額の血税を使って"あえてする必要がないこと"をする。市も膨大な借金をかかえているにもかかわらず、こうした無駄遣いは平気でする。所詮お役所仕事はこんなもの、とあきらめてしまえばそれまでだが、なんともお粗末である。