デスクの独り言

第64回・2005年4月9日

医療現場の姿

 大館市の小畑市長が先月の定例市議会行政報告で、市立総合病院で発生した医療事故について報告し、遺族に陳謝の意を表したのは記憶に新しい。医療ミスが発覚すると、院長、市長ともさながら決まり文句のごとく「再発防止策を徹底する」との決意を示す。しかし、同病院の場合、忘れたころに重大なミスによって患者を死なすなどの事態が生ずる。

 医師や看護師とはいえ、医療現場に立つのは生身の人間なのだからミスもする、といわれてしまえばそれまでだが、患者は病院に、一つしかない命を託しているのである。ワラをもすがる思いの患者も多いだろう。延命の見込みがなく、医療現場も最大限の努力をした結果亡くなったのなら、家族も納得しよう。だが、疑問に思いたくなるケースもあり、生きられたものを医療ミスによって命を取られたとなれば、遺族は結果を承服できるものではない。

 同病院については、再発防止を徹底すると発生のたびに約束しながらも、なぜこうも医療ミスが続くのかと以前から不思議に思っていたところ、昨年、今年とごく親しい間柄の者が亡くなり、少なからず同病院にかかわりのあるケースのため、病院側とそれを運営する大館市に現場のあり方について再考を促す意味から、当コラムで取り上げることにした。

 さる3月2日の行政報告で市長が報告した医療ミスは、市内の診療所で腎臓病のため血液透析を受けていた患者が、心臓病治療のため市立総合病院を紹介され、外来や入院治療を受けていたところ、入院中の1月17日に死亡した事例。患者に投与していた不整脈治療薬の血中濃度測定検査結果の報告が、患者の死亡後にあり、数値が高いのに気づいて調査したという。この薬は血液透析患者には使用できない薬で、投薬によって、さらに心臓の悪化を招き、それが心停止につながったと判断された。 

 市長は「患者が亡くなったことは誠に遺憾であり、遺族には心からお詫び申し上げたい。この医療ミスを受け、直ちに医療安全推進委員会を開き、カルテや処方せんに血液透析中の表示をすることや、医師、薬剤師のチェック体制など、再発防止策を決定している」などと釈明した。

 では、前述の親しい間柄の者が亡くなった2件の事例に触れてみよう。1件は昨年8月に死亡した40代後半の女性である。遺族の話によると、この婦人は自宅と目と鼻の先にある大型小売店の従業員として働いていたが、突然具合が悪くなり、救急車で同病院に搬送された。だが、医師は入院の必要なしと診断し、家に帰した。それから何日かして再び具合が悪くなり、同病院に搬送されたが、先と同様の診断を下されたという。それから数日して、またも具合が悪くなり、自宅で帰らぬ人となった。

 前述の医療ミスとは意味あいが異なるものの、本来入院させて治療にあたるべきものを「その必要なし」とした医師の診断ミス、広義に解釈すればれっきとした医療ミスではないのか。育ち盛りの2人の子を残して母親が亡くなったのだから、「きちんと入院させてくれていたら」と夫をはじめ遺族らが、断腸の思いだったのはいうまでもない。法廷闘争に持ち込めば、「診察したときは、入院の必要がなかった」と病院側は主張するであろう。あきらめきれない、と遺族は今でも苦渋の表情をうかべる。だが、市を相手取って訴訟を起こせばこれから先、遺族を襲うのは想像を絶する心労以外の何ものでもないため、断念したと聞く。

 さらに1件は、2月に亡くなった事例である。90歳と高齢の女性で、寝たきりではないものの、最近はほとんどベッドの中にいて、気の毒なほど床ずれを起こしていた。長男夫婦と孫との4人暮らし。心臓疾患で、20年ほど前に市立総合病院に入院した経緯がある。いつもと様子が違うのに気づいた家人は、救急車を呼んだ。家人は同病院への搬送を願い、大館広域消防本部の隊員が同病院に連絡を取ったが、隊員は「拒否されましたので別の病院に搬送します」という旨の説明をしたという。市民が最も頼りにしている病院に拒否されたことに、家人は少なからず衝撃を受けた。

 あまりにも高齢だからなのかどうかは、病院側の説明を受けていないので分からない。隊員ですら、その理由は知らされなかったようだ。入院患者であふれていて、ベッドが一つも空いていないということもあるまい。結局、90の老体を乗せた救急車は、予想もせぬ比内町立扇田病院に運ばれた。深夜午前零時前に息を引き取り、駆けつけた10数人の子や孫とともに自宅に帰った。親族にとって、かけがえのない人だったのはいうまでもない。

 このケースは、無論医療ミスとは違うが、医療拒否、受け入れ拒否という重大で病院の根幹を揺るがすほどの問題である。その人だけが受け入れを拒否されたはずはなく、さながら患者を選り好みするかのごとく日常的に行われているとすれば、きわめて由々しき事態だ。病院側は「うちだけではなく、どこでもやっている」などと平気でいうのであろうか。せめて、こういう事情なのでどこそこの病院へどうぞ、という説明がなされるのなら家人もある程度納得しよう。しかし家人は、受け入れ拒否の理由を何ひとつ教えてくれなかった、と話している。先の件といい、この件といい、大館市立総合病院とはいったいどういう施設で、現場の者たちにいかなる教育をしているのか、と院長や市長に問いたいほどだ。

 市は20年度完成を目標に同病院の増改築事業を進めており、「健康を回復する場・癒しの場としての機能の充実やバリアフリーなど、患者さんが利用しやすい施設づくりに努めたい」としている。"箱"は立派になるが、医療ミスや受け入れ拒否といった重大な問題を根本的から解決できぬようでは、やがて市民は同病院を信用しなくなり、結果的に深刻な赤字経営を強いられる。当然のことながら、そのツケは市民にまわってくる。1件たりとも医療ミスは起こさぬ確固たる信念と、病めるいかなる患者も受け入れる誠実さが、医療現場にとっていかに大切なものであるかという認識を、あらためて同病院の全スタッフに徹底すべきではないか。「市立病院なら大丈夫」と、市民みんなに安心してもらえるように。