デスクの独り言

第54回・2004年4月4日

韓国ドラマ

 韓国については、先のコラムでも幾度か取り上げたが、ますます「あなどれぬ国」という思いを強くしている。ドラマ一つとっても、すごい。「すごい」とはいささか陳腐な表現だが、この底力は何なのだろう、と舌を巻いてしまう。日本では感じ取ることのできぬ独特の重厚さ、そして新鮮さ。だからこそ「冬のソナタ」をはじめとする韓国ドラマが、これほどまで日本人に受け入れられているのではないか。トレンディーな日本のドラマに食傷気味なドラマファンにとって、韓国ドラマはまさに新鮮な驚きなのかも知れない。

 全国の「冬ソナ」ファンの強い要望で、この作品は昨年のNHK・BSに続いて今月3日から同総合(毎週土曜日午後11時10分-午前0時10分)でも放送されている。チェ・ジウ演ずるヒロインのチョン・ユジン、ペ・ヨンジュン演ずる相手役のカン・ジュンサン/イ・ミニョン(二役)を軸に繰り広げられる純愛ドラマ。日本での韓国ドラマブームは、2大トップスターの出演によるこの作品で火がついたといえる。

 同BSでは「冬のソナタ」に続いて全24回にわたって「美しき日々」が放送され、先ごろ終了した。日本のドラマを見ても、理屈抜きで「カッコいい」と思える俳優にはなかなかお目にかかれないが、この作品にチェ・ジウとともに主役で出演したイ・ビョンホンはむしろ「カッコよすぎる」俳優だ。彼のレベルもしくはそれ以上のマスクなら、日本の俳優の中にもゴロゴロいるのだが、立ち居振舞いを含む全体が醸し出す雰囲気は日本人とまったく異質で、それがまた「韓国のスーパースター」たる所以なのであろう。

 この2作品、いずれも全編ハングル(韓国語)で楽しんだ。といっても、ハングルなど理解し得るはずもないし、NHK・教育の韓国語講座を見てもなかなか憶えられない。学校でまったく習わなかった分、いわば素養がない分、ハングルは英語より何倍もむずかしく思える。しかし不思議なもので、枝葉末節の部分に対する理解をあきらめて幹の部分で楽しもうと決めてかかると、さほど不自由を感じない。以前のコラムでも述べたが、ハングルのままでもドラマの流れは手に取るように理解できるのである。複雑に絡み合う伏線も、それぞれの登場人物が置かれた立場も十分にわかる。

 それに加えて「すごい」のが「美しき日々」というタイトル。解し方によってはきわめて平凡だし、ドラマの展開は「美しき」どころではない。イ・ビョンホン演ずるイ・ミンチョルと、チェ・ジウ演ずるキム・ヨンス、そしてそれを取り巻く者たちは哀しみと絶望の中で生きている。中でも2人の主役の立場は「世の中にこれほどつらい人間はいるだろうか」とさえ思わせる。にもかかわらず、「美しき日々」。

 だが、地獄のようなつらい日々も最終回に「幸福」で帰結することによって、「美しき日々」として昇華させるという意図が作品にあったとしたら、この作品にこれほど優れたタイトルは存在しないことになる。事実、それがこの作品、そしてタイトルの意図であろう。最終回でミンチョルとヨンスは無事に再会し、2人はこれから真の意味で「美しき日々」を過ごしていく、という含みも持たせつつドラマは終焉を迎えた。

 「冬のソナタ」もそうだったが、ことさら泣かなくてもいい場面でも登場人物が頻繁に涙を流していたのがやや気になった。また、「美しき日々」では雑踏の人々がやけに物珍しげに俳優たちを見ているのも鼻についた。それらを差し引けば、この2作品はまぎれもなく秀作であろう。両作品に起用した楽曲、またそれぞれのシーンでの挿入のタイミングも絶妙だった。

 細かい会話の内容まで理解しなくていい、という気持ちで韓国ドラマをハングルで鑑賞する"恩恵"として、俳優たちの生の声を聞けることが挙げられる。日本語の吹き替えで見ている鑑賞者にはわからない興味深い点も"発見"できる。その一つが俳優たちの声質。「冬ソナ」に出演したペ・ヨンジュンと「美しき日々」のイ・ビョンホンの声質は、吹き替えからは想像もつかぬほど重低音で、双方よく似ている。また、チェ・ジウも女性としては低めで艶のある声質をしている。これらを生で楽しめるのも、直接ハングルでドラマを見ることの醍醐味だ。彼女が日本でも活動したいと願っていることからすれば、いずれ近い将来、日本のドラマや映画、CMなどにも出演するのではないか。

 4月1日からは一連の韓国ドラマの第3弾、「オールイン 運命の愛」(毎週木曜日午後10時-11時=NHK・BS=)が24回シリーズで始まった。イ・ビョンホンが主役で、純愛というこれまでコンセプトに加え、生き死にをかけた男臭さが漂うドラマだ。すでに2つの作品をハングルで鑑賞したのだから、もうそろそろいいかなと思い、少し投げやりに第1回を見てみると、これでもかとばかりに初回からグイグイ引っ張る。だから韓国ドラマは、あなどれない。むしろ、さまざまな要素からして韓国そのものがあなどれない、と表現した方が適切であろう。

 これまで何度かビジネスのやり取りをしている韓国企業の社長が、受話器の向こうから巧みな日本語で「今韓国は不況で、どん底なんですよ」といった。15日の投開票に向け、韓国では2日から総選挙に伴う激烈な選挙運動が繰り広げられている。ノ・ムヒョン大統領弾劾に反対する与党「開かれたウリ党」、弾劾訴追案を可決させた野党ハンナラ党。この2党による対決の構図だ。日本人にとって「近くて遠い国」ではなく「真に近い国」になりつつある韓国。ドラマなどの文化的交流は無論、経済交流をはじめさらに多面的な交わりが両国で展開されるよう期待したい。